風の街
紗里菜
風の街
灰色のシャッター通りには落書きさえもされず、どこまでもねずみ色した景色が広がる。
ただ、鏡文字の名前をぎりぎり判別できるかも知れない元看板たちには、文具店、精肉店などのような橙や赤などの暖色系で書かれた文字が自己主張をしている。
ただ、かっての精肉店のコロッケの匂い、文具店の一角で販売していた駄菓子に集う以前の子供たちの歓声など、この町を吹く透明な風たちには記憶があってがたがたとシャッターの扉を開けようとしている。
地面すれすれのシャッターがかすかに横に揺れながら、風たちを入店させて記憶の中にある店の賑わいを反芻する。
そんなシャッター街に時折訪れる人間は俯きがちに、脇目も振らず、やや早足に遠ざかる。
灰色に覆われたこの商店街を吹き抜ける風たちのみが満喫している。
匂いだったり、賑わいだったり、人間が以前営んだ記憶は風に刻まれる。
そして、シャッターだけはがたかたと揺れて、大事な何かを人に教えようとしてるのかも知れない。
風の街 紗里菜 @sarina03
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