三日目

青い水母を追いかける。

 またその翌日、昨日のように堤防を見ても、堤防に行ってもあの海月を見ることは叶わなかった――――



 八月十六日十九時頃、お盆の最終日の夜。この地域では海に向かい灯篭を流す風習がある。うちもその灯篭を毎年この海に流しに海へと向かう。僕はあの堤防を気にかけながら海岸に居た。灯篭を流そうという者、その灯篭を観ようと集まった者、それぞれの人が集まりすぐに海岸は人でいっぱいになった。

 そして、その灯篭を流そうとしたその時だった。堤防に青白い光を見つけた。僕はその光を見てすぐに走り出した。多くの人をかき分け、ただ走る。ただ光を追う。あの光の、あの海月くらげの正体が知りたい。そのために走る。追う。ただひたすらに……

 いや、なんとなくは分かっていたのだ。あの光の正体が。あの水母くらげが何者なのか。分かっていたのだ……


 やっと見つけた。ずっと追っていた者の正体が分かったのだ。

「はぁ、はぁ、やっと、見つけた……」

息切れがやまない。僕は走りきって下を向いていた顔を水母へと向けた。


「……お母さん」

そう一言僕が母に向かって言い放った。その時の僕の顔はどんなだったろうか。きっと笑っていたのだろう。まるでかくれんぼで隠れる母を見つけてはしゃぐ子供のように。そんな顔だった、そんな気がする。


『――――』


 母はにこっと微笑んで何かを言った。音はなにもなかったが、何を言ったかははっきり分かった。


 すると母はすっとその場から「ふわっ」と浮き上がった。灯篭が海へ放たれると共に。海を泳ぐ水母のように。暗くどこまでも続くあの黒い青の空に消えるかのように……

「お母さん、待っ――」

 母に手を伸ばし、足を数歩進めたその瞬間、――バシャン。その音と共に、母があの空へ消えると共に、僕は暗く、深い青に包まれた。あの青に溶けるように、あの青に成るように、あのあお水母くらげを、いかけていった…………――

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青い海月を追いかける 野田 琳仁 @milk4192

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