絶対安全にゴールさせる気満々ゾンビVS天然で危険に飛び込むガール

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 生物科学者にして不死の研究を行っていた20世紀最悪のマッドサイエンティストがいる。

 名前を黒輪くろのわ才角さいかく

 不死の研究のために、現在より比較的に緩い20世紀の倫理観でも数多の外道非道を行った、マッドサイエンティスト。

 しかし、彼は研究半ばで亡くなり、研究施設及び財産は凍結。

 放置された山奥の別荘だけが残った。

 そして、今、一人の少女が迷い込んだ。

 済南寺さいなんじ澄火すみか

 彼女はたまたま道に迷って、才角の別荘に迷い込み……『あれ?これはなんでしょうか?』と、不用意に書斎内の隠しスイッチをいれてエレベーターを起動。書斎ごと地下室に降りてしまい、あろうことか最悪のマッドサイエンティストの隠し研究施設に迷い込んでしまった。

 「ここは、なんでしょう?」

 澄火は未だ自分の危機的状況が分かっていない。

 書斎の扉を開けると、さっきまで見えた木製の廊下と窓は消え、白熱電球の薄明かりに照らされた真っ白な無機質の通路だけが見えていた。

 「分かりました。また私、迷子ですね。

 では、誰か親切な人に訊いて、帰りましょう。」

 ぺちんと手を叩いて納得する澄火。

 敢えて言おう。彼女は命の危機に瀕している。

 不死の研究目的で作られた隠し施設。

 そんな場所に実験体や罠や危険物が無いと思うか?

 在る!勿論!

 しかし、澄火は今までの言動と行動でで察しの通り、その天然故に危険に気付いていない!

 「誰かー、いらっしゃいますかー?」

 間延びした間抜けな声で自分の居場所を宣伝する。


 迂闊にもそんなことをしたものだから……

 バキン!プシュー!ビービー!ウォオオオオン!

 何かが壊れる音、密閉されていた何かが開くき音、緊張感を否応無く張りつめさせる音の警報、大掛かりな機械の駆動音が一斉に聞こえる。

 通路の先、何処からともなくボロボロの布切れを辛うじて纏っている人………が出て来た。


 肌は灰色、半透明で血管が見える、黄ばんでいる、そもそも肌が存在せずに骨が剥き出しになっている等々。

 手足は捩じれてる、火傷の痛々しい痕、薬品でただれた痕、皮膚から蜘蛛の足の様なものが生えている、全身から血が絶え間なく流れている。

 多種多様、異形異常。生物図鑑には載っていない異形達がぞろぞろと澄火に群がって来た。

 両腕を空に投げ出す様なポーズで歩くもの、這う這うの体を引き摺ってくるもの、そもそも体が水の詰まった革袋の様になって地面を転がっているもの……。


 ゾンビゲームにおける最悪手を実行した結果、済南寺さいなんじ澄火すみかは謎の存在にいきなり囲まれ、デッドエンドを迎えてしまいました。と、テロップが出そうな状況に彼女は今、ある。

 無論、ゲームではないこの世界ではセーブは無く、ゲームオーバー=以降は何も有りません。つまり、『死』あるのみ。


 澄火はその場から動かず、手を挙げてこう言った。

 「あ、ごめんなさい。うっかりここが何処か解らず迷い込んでしまったのですが、どなたか外へ出る方法を知っていませんか?」

 澄火はある種のアホの子だ。

 小学校時代は町中を歩く怪しいおじさんにホイホイついていってしこたま怒られる。

 高校時代。昼間から歩いている青年を逆ナンして泣かせる。

 大学時代は講義をサボって公園で子ども達に混じって警察へ行く羽目になる。

 そして今回、異形の怪物に全身を掴まれて通路の奥に引き摺り込まれていく……。

 間違いなくアホの子だ。



 「え?そっち?奥に出口あるの?」

 そんな彼女の何の怯えも動揺も無い彼女の後ろで……。

 キュィィイイイイイイイイイイン!

 歯医者のドリルの様な音が聞こえたかと思うと、通路の両サイドから高速回転する鋸が幾つもせり出して何も無い空を切り裂いた。

 もし、彼女があのままあの場にとどまっていたら、彼女は輪切りにされて地面に撒き散らされていただろう。

 「あぁ、危なかったのですね。有り難う御座います。」

 澄火はある種のアホの子だ。

 小学校時代は町中を歩く怪しいおじさんにホイホイついていって、当時その周辺で騒がれていた不審者だった怪しいおじさんを、靴下に石を入れたブラックジャックもどきで撃退。後々方々からしこたま怒られる。(不審者は無事逮捕。)

 高校時代。昼間から歩いている青年を逆ナンして話を聞いて自殺へ向かおうとしていた青年の悩みを聞き、泣かせ、結果的に自殺を考え直させる。

 大学時代は講義をサボって公園で子ども達に混じって遊び、砂場でトンネルを作る際に手にあった煙草の火傷を見付けて児相(児童相談所)へ届け出。最終的に刑事事件となり、事情を聴くためにという事で警察に行く羽目になる。

 そして今回、異形の怪物に全身を掴まれて通路の奥に引き摺り込まれて九死に一生を得る。

 間違いなくアホの子だ。しかし、天才的なアホの子だ。

 自分から修羅場に飛び込み、そして修羅場を潜り抜けている。

 「デグジ、ムズガジイ。」

 澄火の右腕を引いていた者が喋る。

 「出られるけど、さっきみたいなものが沢山有るという事で良いですか?」

 「ヴン。」

 頭を千切れそうな程縦に振る。

 正直、半分ほど首が千切れているので、危うい。

 「それだけじゃな い。

 仕掛け沢 山。

 頭使 う。

 難し い。」

 「成程、簡単に出口を見付けてさようなら。という事は難しいのですね。」

 「そ う。そ う。」

 今度は背中を押す全身半透明の人が同意した。

 「では、頑張って出口を見付けます。」

 「手ー伝ーうーよー。」

 足を包むようにして押している袋状の身体の人がそんな事を言った。

 「良いのですか?」

 」ここにいるすべてのもののそうい。手伝う、出る。

 気にしないで。任せて。「

 頭の上で小さな蝙蝠モドキの人が言った。


 「「「「「みんなで あなたの 出口 見つける。 ここに 居る必要 無い!」」」」」

 言葉が重なった。

 「有り難う御座います。

 では、早速探しに行きましょう。」

 そう言って異形の味方の中に居た澄火は飛び出して通路の左側にあった扉をいきなり開けて……

 「あれ?」

 中を調べようとして、部屋が無い事に気付いた。

 部屋だと思った扉の先。足元を見れば数m下まで何も無い落とし穴。

 そして、落とし穴のゴールには鋭い剣山の様なものが生えていた

 あれあれと思って見ている内に、足元がいきなり動き出して部屋へ吸い込まれそうになって………首根っこを掴まれた。

 「ゴゴ、ズゴイアブナイガラギヲヅゲデ!」

 足元のベルトコンベアから引きずり出されて怒られた。



 「そこは 罠!」

 鍵が嵌っている壁に近付こうとして止められた。

 次の瞬間、天井が落ちてきた。


 「逆ー逆ー!

 さっきそっちには行ったでしょう?」

 うっかりさっき行って死にかけた道に行こうとして阻止された。


 「ぽちっと」

 「ゾレバゼッダイオジジャイゲナイボダンダ!

 ニゲルゾ!」

 機械の兵隊達に追われて危うく消炭にされかけた。





 「「「「「「やっと 出口 着いた !」」」」」」

 満身創痍。

 五時間に及ぶ命の危機の連続

 その末に、地下の研究施設の出口に、辿り着いたのだ。

 「有り難う御座います。皆さんのおかげで辿り着く事が出来ました。」

 「ユダンズルナヨ。マダビドザドマデギョリガアル。」

 「途中で怪我をしないで ね。」

 「帰ってー、待ってーいるー人ーたちーのー事をー安心ーさせてー上げなねー。」

 「本当に有り難う御座います。皆さんの事は忘れません。何時か、お礼を。」

 」ダメ。忘れて。私達は居てはいけない。

 お礼も要らない。私達はいいから。生きて。幸せに。「


 背中を押され、澄火は研究施設を後にした。

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