ソロベロス 地獄の番犬を召喚したら、頭が一つだけなんですけど?!
荒木シオン
我が名はケルベロスである! 頭が一つだろうとも!
かの
そんな
「うぐっ……ぐすんっ。なんで? どうして、こんなことに……」
――どうも今回は勝手が違った。
第一、
そこは偉大な我を呼び出せたことに
だというのに、この
『これ、娘よ。いい加減に泣き止まぬか。
「
なんと
「だって、アナタ! 頭が一つしかないじゃないですか! ケルベロスは頭が三つあるんですよ?! 私が駆け出しだからって馬鹿にして、この大嘘つき!」
衝撃的な事実を言い放つ……え? 待って、我……今、頭が一つしかないの?
確かに先ほどから妙に肩が軽いし、回りが広々としていて、なんだか静かだなぁーって感じてはいたけども……。
予想外の事態に左右を何度も確認していると、少女には我が図星を突かれおろおろと
「ほら! やっぱり! 頭が三つないのにケルベロスとか笑わせます! 頭が一つ! そう、ソロのアナタは『ソロベロス』と言うほかありませんね!」
確信と自信に満ちた態度で
おい、小娘……泣き止んだはいいが、言い得て
認めん! 我は認めんぞ! そんな名前! 我が名はケルベロス! ケルベロスである!!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そのたびにナベリウスやチェルベロなど様々な名で呼ばれることもあった。あったのだが――、
「は~い、これで登録完了ですよぉ~クリスさん。
――これほど
まぁ、どこの世界にも似たような組織はあるので別段珍しくもない……。
さておき、これで我は小娘の契約召喚獣として正式に登録されたわけだが、どうしてそんなに浮かない表情をしているのか?
なんだ? はなはだ
そう文句の一つも言ってやろうとした瞬間、
「あら! クリス! 落ちこぼれのクリスじゃありませんの! どうしました? ついに召喚術士を
我と小娘の行く手を阻むように現れたのは、青いドレスに身を包んだ金髪の女であった。その後ろに控えるのは
なるほど、オルトロスか……。コイツを使役できているのであれば、我の
我が
「あ、姉弟子様……。ほ、本日はご
小娘はどこか
おい、どうしたのだ? 貴様は偉大な
小娘の態度を
「ふんっ、
はっはっはっ……この世界は本当に我を飽きさせぬな。たった
口を
怒り
はっ……その度胸は買ってやる。だが、我に
そうしてオルトロスの首元へ噛み付こうとした瞬間、
「は~い、ギルド内での
我らの間にスッと割って入ったのは、先ほどカウンター越しに会話した制服の女。その肩に止まるのは黄金の飾り羽根を
不死鳥か、その
肩の上からこちらを見下してくる鳥を睨み付けていると、その主人たる女が我を見てくすりと笑う。
「あんまりおいたをしたらダメですよぉ~? エセリアさんも妹弟子をからかうのはほどほどにして下さいねぇ~? さっ、クリスちゃんはまた明日ねぇ~? 今日はもう帰ってゆっくり休むんだよぉ~?」
優しくおっとりとしていながら有無を言わせぬ圧を感じさせる言葉に、エセリアと呼ばれた青いドレスの女はサッと
しかし、我はその去り際にヤツが呟いた言葉を聞き逃さなかった。
はっ! 覚えておくのは貴様のほうだぞエセリアとやら……。
さておき、いつまで固まっておるのだ小娘? 今夜の宿とやらに帰るぞ!
そうして我は呆然とし動かぬ小娘を
ふむ……ところで、こやつの宿とやらはどこであろうな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
右や左、真っ直ぐなど断片的な指示しか出さぬ小娘を担ぎ街中を歩き続け、宿に着いたときにはすっかり日が暮れていた。
で、小娘はというと自室に入るなり、ベッドで丸くなりここ数刻動かない。
こやつ……まさかこのまま寝てしまうつもりではあるまいな?
おい、起きろ! 起きるのだ! 我は腹が減った! 食堂とやらにいくぞ!
指示もなく放置されるのにもいい加減飽きたため、小娘を叩き起こすべくシーツを
――目に涙を浮かべ唇を噛み締める小娘と目が合った。
無言で見つめ合う我と小娘。重く気まずい沈黙が
「なんですか……。お前も私を馬鹿にするんですか?」
そう言って我を睨み付ける小娘の瞳には、しかし、確かな炎が宿っていた。
なるほど面白い……。ただの落ちこぼれ召喚術士かと思ったがこれはこれは。その心の奥底に
よい、よいぞ、小娘。その
数刻後、小娘は……我に全てをぶちまけた。
憧れの召喚術士になるべく様々な修行を修行を耐え抜く中で受けた数々の嫌がらせやいじめ。そうして、我を召喚するに至った経緯などなど。
それら話を聞き終えれば、我がこやつに呼び出された理由も納得できた。
小娘いや、クリス……そなたは美しいな。これだから人間というものは
『小娘、いやクリスよ! 今こそ改めて名乗ろう! 我が名は地獄の番犬ケルベロス。またの名はかの
突然、口上を始める我に目を見開くクリスだったが、
『
全てを聞き終えると涙を浮かべ、笑顔で頷くのだった。
あぁ、そうだ。
こうして
だが、それらを語るのはまた次の機会としておこう……。
我が名はケルベロス。いや、大召喚術士クリス・プロスに
完
ソロベロス 地獄の番犬を召喚したら、頭が一つだけなんですけど?! 荒木シオン @SionSumire
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