君とラスト

コオロギ

君とラスト

 どうしても最終回まで観たかったのだと友人は云った。

 深夜に押しかけてきた友人はドアの前で真っ青な顔にへらへらした笑みを浮かべていた。ああ本当にあいつなんだと俺は頭が痛くなった。つい先日額縁の中で見た顔そのままだった。

「で、何時からなんだ?」

「二時」

 部屋に上がった友人はきょろきょろと中を見回した。テレビの電源を入れチャンネルを合わせる。

 二人でソファに並んで座り、最終回が始まるのを待つ。

「今期一押しなんだよ」

「の最終話だけ俺は観ることになるんだな」

「ごめんなさい」

「ど深夜に呼び鈴連打で叩き起こされてな」

「もうしわけございません」

 欠伸を噛み殺しながらCMを流し見続け、あと数分で、というところだった。

 なにやら外が騒がしい。

 ばさばさと、無数の鳥が羽ばたいているような音だった。

 こんな時間にどういうことだろうとソファから立ち上がり窓を確かめた。

「うわ」

 天使。

 天使、天使、また天使。

 天使が空を埋めている。

 真っ暗な空に、それはさながら無数のサーチライトのように光を放っていた。

「やっぱり振り切ってきたのはまずかったかな……」

 近寄ってきた友人が背後で低い声を出した。

「お前天使に追われてんの」

「そうみたい……」

 しゃっとカーテンを閉めた。

 紐を引っ張って電気も消す。

 パソコンに繋いでいたヘッドフォンを引っこ抜き、友人の頭に装着する。

「お?」

 友人の肩を掴み再びソファに座らせ、ヘッドフォンのジャックをテレビに繋ぎなおす。

「とりあえずお前は最終回を観ろ」

「いいの?」

「知らんけど」

「天国行けなくなっちゃうかもよ?」

「知らんけど」

 友人はまたへらへらと笑い、そのときはお供するねと云った。

 外が一層騒がしくなった。台風が来ているかのような風音にラッパの音まで混じり始め、カーテン越しに天使のサーチライトが右往左往していた。

 暗い室内で、友人の蒼白した顔の中でその目だけが爛々と輝き、今か今かとテレビを見つめている。

 そして二時を迎えた。

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君とラスト コオロギ @softinsect

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