戦隊『グランジャーV』

関谷光太郎

第1話

 俺は『グランジャーV』の一員として、正義の味方をやっている。


 いや、ごめん。これ現実の話じゃなくて、テレビヒーロー物の仕事の話。


 俺はモデル出身の新進俳優で、この番組が初めての役者デビューとなる。


 イケメン俳優の登竜門とも言われる特撮番組への出演だ。その頑張り次第では役者として大きなステップになると、頭の中で『ソロバン』を弾いた俺は、大いに頑張った。


 さて、このジャリ番……もとい『グランジャーV』だが。これはいわゆる集団ヒーロー物というやつで、複数いるメンバーの色分けをして役割の分担をするタイプのものだ。


 俺の色はイエロー。


 お解りだと思うが、主役ではない。


 忠義に熱い性格で、グランジャ星の王子であるレッドに、これでもかというほど仕えるという役どころだ。


 俺の他には、グリーン、ピンク、ブルーがいる。お決まりの色分けだと思われるだろうが、俺たちのチームはこの三つの色がすべて女性なのである。


 レッドを慕うお姫様三人が、彼に気に入られようとして、王子の怪人退治に協力するというのが基本コンセプトだ。


 番組は、新しいヒーロー像を打ち出そうと鳴り物入りでスタートしたが、視聴率は一向に振るわず、歴代ヒーロー作品のワーストNo.1確実と揶揄されていた。


「あのね、番組のテコ入れをします」


 俺をこっそり招いた高級イタリアンのVIPルームで、プロデューサーが呟いた。


「テコ入れっすか」


「そう。このまんまじゃ、私の立場がやばいんですよ」


「めちゃ個人的な話っすね」


「他人事ではありませんよ君。番組の失敗は君たち俳優の今後にも大きく影響するんだからね」


「マジっすか!」


 俺はこの番組で、役者として大きなチャンスを掴めると思えばこそ、口うるさい年寄り執事のようなイエロー役を我慢しているのだ。それが報われないなんてありえない!


「それでなくても君の役は、派手なレッドとお色気ムンムンの姫たちに埋もれて、益々影が薄くなっていますからね。今後の役者人生にも必ず影響します。さらに番組の不評が重なれば……」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺、どうすりゃいいんすか?」


「だからテコ入れです」


 プロデューサーは豪勢なフルコースを勧めながら、俺にテコ入れのコンセプトを力説した。


「え、俺が仲間を裏切るんすか!」


「そう、インパクトあるでしょう?」


「いや、そりゃちょっと」


「闇堕ちですよ。今はこういうダークヒーローに人気が集まるんです。これで目立たなかった君のイエローは一躍番組の華になること請け合い!」


「た、確かに。俺、友だちにいわれたんすよ。お前の役はまるで忍者ヒーローの白だって。俺、その番組知らなかったんで調べたんすよ。そしたら、三人の忍者が主役の大昔の特撮番組なんすよ。赤がイケメン。青が愛嬌のある子供。そして白は、優しいおじいさんじゃないすか!」


「ああ、あれはいい作品でした」


「いや、あの番組での白はいい味出してんすよ。でも若い俺がやってるイエローがあの感じつーのは微妙でしょ?」


「だからテコ入れなんです! いいですか。君が戦隊をあとにする時のセリフも決まっているんですよ」


「せ、セリフまで?」


 プロデューサーはニヒルな表情を作ってそのセリフを呟いた。


「条件は『ソロッタ』。『ソロソロ』この戦隊を抜けて、俺様イエローの『ソロ活動』の始まりだ!」


「おー」


「どうです、カッコイイでしょう!」


「俺、めっちゃ目立ちますよね!」


「もう、目立ちまくり。後半の主役は君だと言っても過言ではない!」


「やります。やらせてください! 俺、全力出すっすよ!」


 全面的なテコ入れが始まった。


 カッコよく戦隊を裏切った俺は、敵方の闇イエローとして復活。


 レッドとグリーン、ピンク、ブルーの四人と死闘を繰り広げるが、二週で倒され爆死した。


 これって、ただのスペシャル怪人じゃん!


 その後、俺の抜けた番組はV字回復。歴代ヒーロー番組で視聴率No.1を勝ち取った。

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戦隊『グランジャーV』 関谷光太郎 @Yorozuya01

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