第42話 子供は大人に、大人は子供に
校長先生が俺に向かって言った。
「本日をもちまして、ツクモ先生は解雇処分となります」
「――え」
人生3度目の追放だった。
***
時を遡る。
ベルゼーブを倒したことにより、魔国との戦争は終結した。
お互いが歩み寄る形での、終戦協定が結ばれる事になった。
将来、より友好的な関係が築くことが出来れば、貿易や、旅行なども行われるに違いない。
そして、ジャジャ一行は全員逮捕された。
今後彼らがどうなるのかはわからない。
が、これまでの横暴な振る舞いに見合った罰を受けることを望む。
正直、そんなことでジャジャが反省し、心入れ替えるとは思わないけどな……
さて、俺個人の話に戻る。
最終決戦を終え、早、2週間。
最初は、俺が英雄だのなんだのと話題になってやまず、勲章やら、称号やら、褒美やらを色々受け取らされていた。
が、それらも一区切りつき、これまでのごたごたにつき、延長し続けていた夏休みがついに終わることになった。
「よし、これで2学期に向けた準備は完了だ」
溜まっていた仕事は、夏休み最後の日の夜、自分の部屋でやっと終わらせることになった。
「早く寝よう」
と、ベッドの前に立つが、布団の中でモゾモゾとうごめく、寝間着姿のいつもの4人組が居た。
「先生、やっと仕事が終わったんですね。早く寝ましょう」
「アドリー、俺だって早く寝たいのだが……」
「一緒に寝ましょうよ。ねぇ」
「……いや、ベッドの面積を考えてくれ」
5人は無理だろ。
4人でもぎゅうぎゅうである。
「みんなでくっつけばいけるってば先生! 」
ビアンカはなかなかの無茶をいう。
「そんなあつ苦しい中で寝れるのはビアンカだけだ」
「ひどい!」
そんな中、シィはいった。
「でも先生、頑張ったわたくし達に、何かご褒美を差し上げなければならないのでして?」
最終決戦から今日まで、なかなか時間が取れないでいた。
「そのとおりだな。全くシィの言うとおりだ」
「んもう、前に『お互いのことはこれから考えよう』ってお話をしたばかりではありませんか」
プリプリ怒るシィは、可憐だった。
「……一緒に寝るのは嫌なの?」
ディアはそう尋ねる。
「嫌なんてことは、決して無い」
正直な気持ちを伝える。
「ただ、君たちがあまりにも――」
半年前の彼女たちを思い出す。
子供らしい子供といった感じだった。
しかし、この短い期間の中、確かな、女性としての成長を感じていた。
「キレイというか……色香を感じるというか……」
「……」
俺含めて、皆、顔を赤くし、視線をそらす。
俺は、自分で言った言葉に、自爆していた。
「……じゃ……じゃあ先生、わたしは自分の部屋で寝るね。邪魔してごめんなさい」
アドリーが立ち上がり、ドアに向かおうとする。
「待て」
「先生……?」
俺は呼び止める。
「ご褒美は、今渡す」
彼女たちは期待する目で、俺を見た。
「キス……とかどうだ……?」
「!?」
「ほっぺたに」
「……子供扱いされた」
ディアのツッコミに、脳天をぶっ叩かれる。
そのとおりかもしれない。
「でもいいよ? わたしは、とてもうれしい」
しかし、ディアは受け入れてくれた。
「先生なら、わたし達が大人になるまで待ってくれるよ」
「まあ、気長に待ちますか」
「皆がいいなら、まあ、わたくしも」
それに続いてみんなも受け入れる。
俺は、おやすみなさいといい、一人ひとり、きれいな頬にキスをする。
照れながらも、皆嬉しそうだった。
「……静かになったな」
部屋には自分一人になる。
寂しくはない。
むしろ、前のやり取りに、まだドキドキするほどだ。
とはいえ、明日は早い。
俺はベッドに横になる。
そして、夢想した。
――彼女たちと一緒に、大人になりたかったな
そんな思いを。
***
時は今、早朝すぐに校長室に呼ばれた俺は、突然の解雇宣言にひどく困惑する。
心当たりはゼロかと言われれば、生徒との付き合い方に問題あったのかもしれない。
しかし、不純なことなど決して無い。
それ以前に全く納得していなかった。
「理由をお聞かせくださいますか?」
「理由はのぉ……そうじゃのぉ……」
何故言いよどむ……。
前校長ムシューに入れ替わり、今年から新しく入った校長は目を横にそらす。
特に問題のない、実直な人物のはずだが……。
「……1歩譲って、クビと言われるのは納得しますが、Gクラスはこれからどうなるのですか? 新しい先生は誰ですか?」
「それは――」
「私が担任になるのさ――」
突然、ドアを開けて現れたのは――
「師匠??」
俺の師匠であり、前まで魔王をやっていた女――エリンだった。
「やあツクモ。今日から私も教師だ。よろしくな」
衝撃的な事実。
「いきなり過ぎですね……まさか師匠が普通に働くなんて」
「まるで私が普段働かないみたいじゃないか……ま、そのとおりなんだがな! わっはっは!」
俺は師匠のことを、サバイバルが得意な自由人(浮浪者)だと思っていたので意外だった。
「……確かに師匠なら、彼女たちの担任教師として、申し分ありません」
師匠が彼女たちを教えるというのであれば、俺にとっては引き下がる理由としては十分だった。
とはいえ俺は、皆から英雄だの最強だの、色々おだてられた結果、無意識的に驕っていたのでは無かろうか?
「……だとすれば、俺は全くのバカであり、足元をすくわれて至極当然だ」
俺は死ぬほど落ち込んだ。
この世の終わりを想像するほどに。
「ツクモ先生……それでですね……あのー、ですね。……まずはこれを見てください」
校長は俺に何かを手渡す。
「転入届け……?」
「それで、言いにくいのですが……名前の欄を見てください」
「名前……え?」
ツクモ・イツキ、と自分の名前が書いてある。
「今日から6年Gクラスの生徒として、その……」
目の前の資料を隅々まで読み込む。
信じがたいことに、文字通り、自分がラクロア魔法学園初等部に入学するといった内容だった。
「――小学生から、やり直してください」
「はぁああああああああ????」
素っ頓狂な声しか、出せなかった。
***
ツクモ・イツキ、22歳。
最終学歴、小学校中退。
「王国の英雄様が、こんな悲しい学歴じゃあ話にならないってことで、国から【義務教育ぐらいはちゃんと受けさせろ】と命令が出された。
それを知った私はその話に乗っかり、教師になった。そして、ツクモ本人と、ツクモの受け持っていたGクラス含めて私が教えることにした……そういうことさ」
教壇には師匠――エリン先生が話をしていた。
そして、俺は子供用の小さな机と椅子に座り、話を聞く。
「よろしくね、せんせ――じゃなかった……ツクモくん!」
「いやー、一緒のクラスになれるなんて嬉しいよ! せ――じゃなくて、ツクモっち!」
左右にはアドリーとビアンカが座っている。
「というか、間違えて先生って呼んでしまいますわ……どうしましょう」
悩むシィに、ディアは答えた。
「あだ名を『先生』にすればいいんじゃない?」
「それですわ!」
後ろの席の二人が賑わう。
みんな、俺と一緒に授業が受けられることに喜んでいるようだ。
「ま、それならいいさ」
俺自身、この場所にいることに、心地よさを感じている。
不思議な暖かさが、胸に宿っていた。
「それじゃ、ツクモ。皆に一言挨拶でもするか?」
俺は、少しだけ考えたあと、席を立つ。
「俺は、ずっと子供のままだった」
静かに、みんな、聞き入る。
「俺が小学生だったとき、あまりいい思い出がない。友達はココアだけ、同世代の奴らは俺の敵だった。
そして、俺は師匠に拾われた。そして、この日から去年にいたるまで、俺は大人ばかりの社会のなかで暮らしてきた。
上辺だけが大人になり、俺の心は、ずっと子供のまま時間が止まっていた。
そして、俺の止まっていた時間を動かしてくれたのは、君たちとの半年間だ。
君たちと共に居た時間の中で、俺は、俺がこれまで手に入れることの出来なかった喜びを経験することが出来た。
俺は教師の立場として、一緒に遊び、一緒に学び、一緒に笑い、過ごした。
一生の宝物だ」
――俺は、今、全てに感謝している。
――ありがとうという思いに満ちていた。
「これからは、君たちの同級生になる。
まさか、こんな馬鹿げた妄想が現実になるなど、全く考えてなかったので、とても驚いた。
だからこそ、俺は、俺の思いを伝えたい。
君たちと一緒に過ごせて、うれしい。
アドリー、ビアンカ、シィ、ディア――みんな大好きだ」
俺の告白に、みんな驚く。
けれども顔を赤くして、立ち上がる。
「わたし達も、嬉しいです!」
みんな俺に抱きついた。
「……やれやれ、一言だけって言ったはずだがな……」
師匠だけは苦笑いするのであった。
――――――――――――――――――――
ご愛読ありがとうございました!
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学歴が小卒未満の最強魔法使い〜俺を追い出した母校に【教師】として舞い戻ったら落ちこぼれ美少女が【最強】に。そして元担任の先生は【ブタ箱】行きに〜 シャナルア @syanarua
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