第41話 最終決戦、竜の勇者VS最強の魔法使い
昔の話だ。
師匠と別れた俺は、冒険者として活動を続けていた。
臨時でパーティーを組むことはあれど、ほとんどはソロでの活動のみだった。
そして、クエストを達成したあとはギルドの酒場でぽつんと一人、酒の入っていない食事をとるのが日課である。
その日も、日課の通り、一人食事を取っていた時、ヤツと出会った。
「おいてめー、何ぼさっとしてんだよええ??」
突然、俺はヤツに絡まれた。
ヤツは、巨大な剣を背負っていた。
そして、ヤツ以外にも、後ろに老人と女性の二人――計三人組だ。
「ここに来たばかりの俺様が、誰一人もクリアできなかったA+ランクのマンティコア討伐クエストをクリアしてやったんだよ」
「それはすごい」
俺自身、そのクエストを挑戦していなかったが、噂と情報が本当なら間違いなく難敵だと分析していた。
「あれを見ろ。何をしているかわかるか?」
言われた先を見ると、たくさんの冒険者が膝を折り、手を大きく広げ、「バンザ―イ!! ジャジャ様バンザーイ!!」と叫んでいた。
なんか騒がしいと思っていたが、こういうことをさせていたのか……。
「てめーもやれよ」
「断る」
「んな!?」
その後すぐに、取り巻きの老人が喝! と叫ぶ。
「貴様、ジャジャ様になんとバカな口の聞き方を!! 愚か者めが!!」
続いて取り巻きの女性も俺を罵倒する。
「マジ生意気ぃ〜!! しばき倒したろか?? ええ??」
散々な言われようである。
普段なら――というより、相手がただのチンピラなら、大人しくこの場を離れ、なるべく関わらないようにするだろう。
しかし、俺はこのジャジャという男に、凄まじいまでの力を感じていた。
間違いなく、その実力は本物だとわかる。
故に、俺は、心の底から疑問に思うことがあった。
「ジャジャ、一つ質問していいか?」
「はん、断る! ジャジャ様と呼べ――」
「君は恐らく最強クラスの力を持っている。それなのになぜ仲間を連れているんだ?」
「は?」
このときの俺は、真に強い者は孤独であるべきだと信じていた。
俺の場合も、そしてジャジャというヤツも、明らかに一人で戦ったほうが強いはずなのに――
「――ガッハッハ! 俺様という存在には必要不可欠だからに決まってるだろうが!!」
不覚にも、その言葉に、俺の心が揺らいでしまった。
師匠に近づくためには、この男のことをもっと知らねばならない。
そう思う自分がいた。
(この男についていけば、俺がこれまで気づいてこなかった何かが分かるかもしれない)
そう考え、俺はジャジャのパーティーに入ることにした。
だがしかし。
今なら、ジャジャの言葉の意味がわかる。
俺様という存在には(雑用係と、俺様を引き立ててくれるであろう賑やかしの子分達が)必要不可欠だからに決まってるだろうが、である。
不覚にも、自ら、ブラックパーティーに加入したのであった。
社会に夢見た若人が悪人に騙される図そのものだと、自分でも思う。
全くもって悲しい。
***
「ガ―ハッハッハ!!!! ガ―ハッハッハ!!!!」
爆心地のど真ん中。
摂氏100万度を超える膨大な熱量の中にいながら、笑う一匹のドラゴンが居た。
生物ならば、絶対に死ぬはずの爆炎。
しかし、全身にその爆炎を浴びてもなお、フレアドラゴンのジャジャは普通に動いていた。
「ざまあみやがれってんだよ!!!! ツクモのゴミカスが!!!!!」
本来であれば、メガバーストを使用した時点で、生体エネルギーをすべて爆発のエネルギーへと変換される。
普通なら、詠唱者は生体エネルギーが枯渇した時点で死ぬ。
しかし、ジャジャだけは特別だった。
生体エネルギーのすべてを爆発のエネルギーに変換した直後、生体エネルギーがまた瞬時に全快しているのである。
それはフレアドラゴンの特性――【炎熱吸収】によるものだ。
つまり、ジャジャはメガバーストによって発生した爆発を、また自ら吸収することによって、生体エネルギーを回復させているのである。
ドゴオオオオオオオン
2度目のメガバーストが始まる。
大きな都市を焼き尽くすほどの爆炎の中で、リベリオンの刀身から、また同じ熱量の爆発が発生する。
無論これで終わりではない。
ジャジャがフレアドラゴンになれる30分間、十数秒間隔で、メガバーストを使用し続けることが可能である。
――爆炎で大地も、生命も、何もかもが燃やし尽くされる。
――生態系どころか、自然環境すら大きく狂う。
――結果、世界を滅ぼせるといって差し支えのないほどの破壊がもたらされる。
これが、【使えば死ぬ剣】を扱える竜の勇者ジャジャ――その隠されし真の実力であった。
「さあ、このまま俺様を苔にしてくれたあの国――ユーフォリア王国に向かうとするか」
フレアドラゴンであるがゆえに、翼もある。
時速100キロ前後で移動可能であり、その間もメガバーストによる爆発は可能だった。
「さあてと――」
ジャジャが飛び立とうとした瞬間――
「は? ――――ぐわばあああああああああああああああ!!!!!」
光り輝く何者かに殴られるのであった。
***
〜ツクモ視点〜
(よし、動きに問題なしか)
超高温の爆炎と爆風の中、普段どおりの動きが出来ることを確認した。
「バカな!! 誰だ俺様を殴りやがったヤツは????」
――と、ジャジャが言っているであろうことを俺は予測する。
実のところ、今、俺には何も聞こえていないし、何も見えていない。
海の底にまで沈んだような感覚、というイメージに近い。
「誰かわかんねーが、だったらぶっ殺してやるよぉおおおお!!!!」
と、恐らくジャジャは激昂しながら俺に剣を袈裟斬りするな。
そして、俺は体勢を低くして、イメージした剣筋を避ける。
「な、避けられ――」
アッパーカット。
「ごは!」
続けて回し蹴り。
1歩踏み込み、跳躍。
鼻先を3回殴りつける。
「がは! ごは!! ちょげ!!!」
ここでジャジャは距離を離す。
魔剣リベリオンには、予めマーキングという魔法を使用していた。
この魔法により、大雑把にだが距離感を把握する。
「きさま、ツクモか……? いったい何をしやがった!!! 答えやがれ!!!!」
今の俺は一言も話すことが出来ない。
なぜなら、メガバーストの爆風から身を守るために、【ハイパーエレメンタル】で身を覆っているからである。
ハイパーエレメンタルは、すべての元素を超越してるからこそ、熱も音も光もすべてを遮断する性質がある。
そして、元々は攻撃魔法として使用するものではなく、対ジャジャ戦のための防御魔法として俺が編み出した魔法だった。
無論、それだけでは戦闘には使えない。
最低限、自分の場所だけは知っておかねば、相手の行動だけ予測できても、対応することは出来ないためだ。
故に予め、使い魔のガルーダを、北の方角と、メガバースト発動時点で自分が居た場所の上空に配置し、感覚を共有していた。
これにより、自分の今いる場所を知り、方向感覚を正常に保つことができた。
「あーそういうことか。てめーもしかして、話せないのか? ……だとすると、目が見えてるのかも怪しいなぁ……ならこれならどうだ!!」
ジャジャは場所を移動し、かつ、攻撃するタイミングを見計らっているのだろう。
静かに待つ。
「……………………」
5秒――10秒――15秒――。
まだ攻撃が来ない。
しかし、神経のすべてを尖らせ、待つ。
そして――
「おらぁ!!」
(今――!)
俺は振り返りながら、ジャジャの手に、裏拳を入れる。
完璧なタイミングだった。
「ぬぉ!! ――しま――」
俺の後ろに回り込んで、斬りかかったジャジャ。
しかし、思わぬ反撃を受け、驚きを隠せないでいた。
そして、手を滑らせ、魔剣リベリオンを手放してしまう。
その瞬間、俺は全力で、飛ばされた魔剣の元へ駆け出した。
「待て!!! やめろ――!!!!」
ジャジャは出遅れる。
俺は自分の拳に、全魔力を集中させた。
魔剣リベリオンはその昔、破壊することが出来ず、封印する以外の道が無かった。
だがしかし、今なら違う。
ハイパーエレメンタルと俺の力があればこそ、破壊は可能。
これぞ、究極の一撃――
「ハイパーエレメンタル・オーバーロード!!!」
光り輝く拳が、魔剣を打ち砕く。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
その瞬間、ハイパーエレメンタルを周囲に解き放つ。
まばゆい極光が、爆炎と爆風のすべてをかき消した。
青空が見える。
地面は池のように穴が出来上がり、その中にマグマのような、溶けた土のスープが入っている。
自身にまとっていた、ハイパーエレメンタルはリベリオンを破壊した時に解除されていた。
そのままでは着地出来ないため、ほんの僅かにしか残っていない魔力を使用し、フライの魔法で空を飛ぶ。
「魔国の街は、どうやら被害はなさそうだ」
遠くを見て、俺は安堵する。
実は魔王城だった場所の周囲にも、ハイパーエレメンタルの壁を作り、被害は最小限に抑えていた。
「つくもぉおおおおおおおおおおお!!!!!! きさまはぁあああああああああああ!!!!!」
フレアドラゴンのジャジャは叫ぶ。
「ジャジャ、もう降参しろ」
「ふざけるなぁああああああああああああああああ!!!!!!!」
激昂するジャジャに、俺の言葉は届かない。
「本当にバカな男だな貴様は。――いいだろう、かかってこい!」
ジャジャは翼をはためかせ、俺に殴りかかる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ずがあああああん
そして俺は、殴られたぶんの2倍3倍、殴り返す。
「はぁああああああああああああああ!!!!!!」
ずどおおおおおおおん
――俺は、仲間など不要だと考えていたときがあった。
――もともと、幼い時のいじめのトラウマで、人間不信だったのだと思う。
――しかし、ジャジャには仲間がいた。
――ジャジャはジャジャ、俺は俺、そう割り切りたかったが、何故かそれが出来なかった。
――理由は今なら分かる。
――ジャジャは、仲間を、強さを、俺には無い物を持っているにも関わらず、あんなクズで、パワハラを繰り返し、振る舞いを少しも顧みない、頭のおかしい性格をしていたからだ
――あんなヤツが、俺の人生で最初の仲間?
――考えただけで、恥ずかしい。
――けれども、全く感謝しないではない。
――ジャジャが俺を、忌まわしきラクロア魔法学園に追放したからこそ、今がある。
――人生が変えるきっかけを作ってくれた。
――故に俺は、叫ぶ。
――心の底から、叫ぶ。
「てめえのほうが、ゴミカスだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
渾身の拳を、ジャジャの腹に叩き込んだ――
***
アドリー達は、ユーフォリア王国の国境付近の村で待機していた。
みんな、ツクモのことを心配しており、たったの30分でさえ、永遠のように感じられた。
「…………あ」
アドリーは人影に気づく。
そして、涙を流す。
「帰ったぞ。みんな」
ツクモは、気絶した人間姿のジャジャを肩に担いでいた。
「せんせぇー! おかえりなさい!」
「ただいま」
アドリー、ビアンカ、シィ、ディアは、ツクモを強く抱きしめるのであった。
―――――――――――――――――――
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