第40話 思いやりの心、奇跡の未来へ

 魔王城の地下牢の中、ジャジャは怨嗟の声をあげる。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――」


 ツクモ・イツキを追放してから、彼の栄華は地の底の底にまで落ちぶれていた。


 簡単に攻略出来るはずだったAランクのクエストに失敗し、死にかけて――


 下げたくもない頭を下げ、魔族に命乞いし続けて――


 魔族に力を奪われた挙げ句、小学生程度の女の子に敗北し、最低最弱の男だと汚名を被せられ――


 ユーフォリア王国では、国家反逆罪で追われる羽目になり、魔国に逃げ延びたと思いきや、魔剣リベリオンを奪われ、地下牢に閉じ込められる。


 これほどまでの屈辱に、ジャジャの、赤ちゃんレベルのデリケートなプライドが耐えられるはずもなく、完全に我を忘れていた。


 地下牢に入れられてから数日が経過している。


 しかし、ジャジャはずっと同じような調子だった。


「……」


「……はあ、マジムリ」


 ガートルもラズビィも、ジャジャに掛ける言葉も無く、処刑されるまでの日々を待ち続けるだけだった。


 が、その状況が一変する。


「外が騒がしいのぉ――」


 地上で何かが起こっていることにガートルとラズビィは気づく。


 ジャジャだけは、呪いの言葉をぼやき続けるのに必死で、外を気にかけることを無かった。


 そうして、しばらく状況を静観していたところ、彼らに奇跡が起きた。


「死ね死ねし――ぬお!!」


 ジャジャは正気に戻る。


 突然、力がもとに戻ったからである。


「ワシの力も元に――これなら魔法が使えるのぉ!」


「あ~~! これならあたしの力で!!」


 ラズビィが鉄で出来た牢屋を蹴破る。


「どやぁ! やっぱいけたし!」


 ガートルとラズビィは喜んだ。


「ジャジャ様、早くここから出ましょう! ジャジャ様のお力さえ戻れば怖いものなどありませぬ! 早くベルゼーブから魔剣を取り戻し――」


「パーティーは解散する」


 しかし、ジャジャは突然そう言い捨てた。


 ガートルとラズビィの目が丸くなる。


「てめえらはさっさと出ていけ。そして遠くに去れ。全力でな」


「ジャジャ様……一体何をされるおつもりで――」


「この世界を滅ぼす」


 ジャジャははっきりと宣言した。


 少しの冗談も含まれない言葉。


 本気の眼だった。


「待ってよジャジャ! あたし達、結構相性良かったじゃん! さっさとこんな糞キモい国のことは忘れてさ、別の国であそぼ? ね?」


「ラズビィの云う通りでございます! わしは最後の最後までジャジャ様に従いたく思いますのじゃ!」


 二人の懇願は、ジャジャには届かなかった。


「くどい!!」


「ひぃ!」


「いいか、お前らのために、十分間だけ待ってやる!! だがな、俺様の考えは変わらん!! 俺様を侮辱した世界など要らん!!! 滅ぼされて当然だ!!!」


 そして、ジャジャは手を上に掲げる。


「来い!! リベリオン!!」


 すると、ジャジャの手が光にあふれる。


 そして、魔王城の宝物庫で保管されていたはずの、魔剣リベリオンがジャジャの元に転移した。


 ジャジャを止める術がないことを悟るガートルとラズビィ。


 ジャジャを残し、地下牢から地上へ逃げるのであった。


***


〜ツクモ視点〜


「先生!!」


「みんな無事のようだな」


 Gクラスの4人が駆けてくるのを見て、俺は安堵する。


 同時に、彼女たちの成長に、俺は嬉しさを覚える。


「本当にごめん! ……ベルゼーブが逃げたことに気づかないなんて……」


 ビアンカの謝罪に、俺は首を横にふる。


「過ぎた話だ。反省はまた次の機会にしよう」


 周囲を見回す。


 ほとんどの兵士たちは戦いを止めていた。


 魔族やモンスターの殆どは倒れているか、降参していた。


「けが人はいるか?」


 近くに居た兵士に呼びかける。


「けが人と死傷者は0人です! ツクモ様が我々一人ひとりに用意してくださったハイポーションと、帰還アイテムのおかげです!」


 本来、その二つのアイテムは、高価かつ希少なため、兵士1万人分を用意することなど不可能だった。


 しかし、俺は短い準備期間の中で、大量生産の方法を模索し、実用へと至ったのである。


 超天才の所業と言う者もいたが、俺にはどうでもいいお世辞だった。


「わたくし達の完全勝利ですわね!」


 シィは嬉しそうに飛び跳ねる。


 うんうん、とディアも首を縦にふる。


「先生、帰りましょう! わたし達の家に……先生?」


 アドリーは俺の顔を見て、キョトンとする。


 俺は、ある方向を見ていた。


「君たちには悪いが、まだ最後の戦いが残っている」


 俺はこの先の戦いに即座に備える。


「いけ、ガルーダ」


 使い魔を2匹、飛び立たせる。


「……」


 待つこと十数秒、魔王城の中から、ある二人が出てきた。


 老人と、若い女である。


 二人共、必死に走っていた。


「――ぬ、貴様は!!! 貴様らはぁあああああああ!!!!!」


「ガートル、それにラズビィか」


 俺に気づいた二人が、駆け寄ってくる。


 二人は服以外の装備を身につけていなかった。


「ツクモ・イツキぃ!!!!! 貴様が!!! 貴様らのせいじゃ!!!!!! こんなことになったのは!!!!!!!」


「どうしてくれてんだよ???? 責任取ってくれんのかよぉおお!!! ええ????」


 ガートルとラズビィは涙を浮かべ、俺と周囲の兵士たちを罵倒する。


「いいか??? この世界が、今日、この日まで続けてこれたのは、ジャジャ様がこの世界を滅ぼさなかったからに他ならない!!!!!

 貴様らがジャジャ様を虐げ、罵り続けた罰として、お前たちもワシらも、みんな死んでしまうのじゃ!!!!!!! この世界と共にのぉ!!!!!!」


 老人の無念の涙。


 周囲にいた者たちは事情をよく知らない。


 故に、なんだかやるせないような微妙な空気感が周囲に生まれているが、俺は別だ。


 ガートルに全く同情していない。


「ガートル。俺はとうの昔から、お前のやり方に反対していた」


「――なんじゃと……」


「お前はヤツを暴走させまいと、無理難題なわがままをすべて受け入れ、甘やかし、不快感そのものを排除し続け、徹底的なまでに堕落させ続けた。その結果が、今なのだろ?」


 奴に教えるべきは、人の社会で生きていく為の作法と考え方だと、俺は何度もガートルに伝えていたが、全く聞き入れてはくれなかった。


 ガートルのやり方には、俺も相当に手を焼いたし、キッシュもその被害者だ。


 遅かれ早かれジャジャが暴走するだろうと予想していたが、全くそのとおりになっただけだった。


「きさまぁあああああああ!!!!!」


「まあいい、お前たちと口論する暇など無い。――全軍に告げる」


 俺は連絡用の水晶を取り出し、総勢1万の軍勢に語りかける。


「これから最後の戦いが始まる。しかし、この戦いにおいて、君たちの力は不要だ。諸君らが所持している帰還アイテムを使用し、ユーフォリア王国へ即時帰還せよ。

 また、何らかの理由で帰還アイテムを使用できない者は今すぐ魔王城の中庭の方に集まれ」


 過酷な戦いの中で、帰還アイテムを紛失、破損した者は全く0人では無いはずだ。


「先生、そんなに勇者ジャジャって強いの……?」


 ビアンカが尋ねる。


 Gクラスの皆、不安な様子だった。


 俺は真剣に、事実を伝える。


「本気になった奴は、世界すら滅ぼせる。はっきり言って、魔王やベルゼーブなんかよりも遥かに強い」


 彼女たちは皆、信じられないといった様子だった。


「お前たちも早く帰還アイテムを使え」


「でも先生は!」


「ここから広い範囲が焼き尽くされる。その中で戦い、ジャジャを倒せるのは俺だけだ」


 俺の言葉に、アドリーは、分かりました、といって引き下がる。


 が、まだ二人、俺に真剣な眼差しを送るものが居た。


「ここが危険なことは分かりましたわ……ですが……」


「……」


 シィとディアの言わんとすることは、察しが付く。


 しかし、いつジャジャが動き出すのか分からない状況下、もし間に合わない場合、人死が出るだろう。


 一秒間、目を閉じる。


「ガートル、ラズビィ、教えてくれ。ジャジャは何か言っていたか?」


「誰が貴様なんかに――」


「『10分間だけ待ってやる』って言ってた」


 ラズビィの答えを聞いた瞬間、俺は水晶に向かって指示した。


「動ける者は5分以内に、降伏した魔族およびモンスター達を中庭まで移動させろ!

 俺の魔法で、全員を安全地帯までワープさせる!」


 この指示に一瞬だけ動揺する兵士たち。


 これまで魔族と命がけで戦っていたのである。


 当然の反応だった。


 だがしかし、俺は人間と魔族の、その先の未来のために、言葉を紡いだ。


「もう既に、魔族との戦争は終わった! これより先は誰一人も、死なせてはならない!!」


「……」


 全軍が静まり返る。


 が、一人、また一人と行動する兵士たちが現れた。


「……動けるか?」


「う……ぎぎ……?」


 魔族を背負ってくる者。


 魔族にハイポーションで治療する者。


 敵同士だった者たちが、手を取り合っているのである。


 信じられないような、夢のような、奇跡のような光景だった――。


「先生これは――」


 アドリーは、自然と涙がこぼれていた。


「人が他者を思いやる心だ」


 俺は自然と、そう答えていた。


「いいえ、先生の思いやりが、皆を動かしたのではなくて?」


 シィはそう反論する。


 そう言われると、なんだかむずがゆい感じがする。


「……先生、ありがとう。みんなを助けてくれて」


 ディアは優しく笑っていた。


 そう言ってもらえるだけで、俺は満足した気持ちになる。


「――ラズビィ」


 俺はラズビィに向き直る。


「ありがとう」


 ラズビィは俺に指をさし、言った。


「おいツクモぉ! これは交換条件だかんな! ジャジャを絶対に死なせんなよ!!!

――ジャジャはあたしの、兄貴分で……将来のダーリンなんだからなぁああ!!!」


「ああ、もちろんだ。約束しよう。ジャジャも含めて、誰も死なせはしない」


 俺の言葉を聞いて、ふん! と横にそっぽ向いたラズビィ。


 全く女心はわからん。


 そうしてしばらく待ち、もうすぐ指示した5分が経とうとする。


 ほとんどの者は帰還アイテムを使用しており、残された者たちは皆、中庭に集まりつつあった。


「ギリギリ間に合うか――?」


 俺が口に出したその瞬間、強大な魔力の波動が、魔王城から発生する。


――フレアドラゴニックフォーゼ!


「何なの、この力――?」


 ビアンカがそう口に出した。


 その直後、魔王城は突如、崩壊する。


 瓦礫が、下から上空へと飛んでいき、その中から一匹のフレアドラゴンが姿を表す。


「見つけたぞ――ツクモ・イツキぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 そのフレアドラゴンは、俺の眼前へ、急降下し、着陸する。


 その姿を見た者達は、フレアドラゴンが手に握っているものを見る。


「剣――?」


 人が持つにはありえないほどに巨大な剣。


 しかし、ドラゴンが持つにはちょうどよく、小刀のように振り回せる大きさだ。


 それは明らかに、ジャジャが使っていた魔剣リベリオンである。


「――あれが、竜の勇者――」


 ビアンカが口に出す。


 その名の通り、ジャジャは人間とフレアドラゴンのハーフである。


 そして、いつもは人の姿をしているが、【フレアドラゴニックフォーゼ】を使用した30分だけはフレアドラゴンへと姿を変える。


「真っ先に俺様を苔にしてくれたのは貴様だったよな?? だからてめーだけは真っ先に殺してやりたいと思ってたところだ」


 俺にガンを飛ばすジャジャ。


 俺はそんなことより、中庭を見て、全員が揃ったことを確認した。


「始めるぞ! 覇王級魔法ワープ!」


 人間、魔族、モンスター、そしてGクラスと、ラズビィ、ガートル、気絶したままの師匠。


 そのすべてが光に溶けていく。


「先生――気をつけて――」


 消える瞬間の、アドリーの言葉に俺は――


「ああ、もちろんだ」


 と、アドリーを安心させるように、笑顔で答える。


「俺様を無視してんじゃねぇよ!!!!!!!!!! 糞がぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 ジャジャは魔剣リベリオンを空に向かってかざす。


 そして、リベリオンの能力を発動させた。


 使えば死ぬ――故に絶大な範囲を破壊し尽くす魔法――自爆魔法――


「メガバースト」


 瞬間――刀身から破壊的威力の爆発が発生する。


 ジャジャも、俺も、魔王城も、その周囲一帯も。


 その全てが、爆炎と熱風に包まれていった。



―――――――――――――――――――


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