尊き
夜野 舞斗
尊死サバイバル
銀髪の長い髪に、ツンデレな女騎士が顔を赤らめている。スマートフォンの向こうに映る彼女は本当に尊い。
まるでこちらが恋をしてしまったかのように、胸がバクバク蠢いている。顔も性格も可愛くて、癒されている。
ああ……尊過ぎて、死んでしまいそう。
まあ、実際に大変なことになるわけではないのだけれどね。
そう思ったところで突如、スマートフォンにニュース速報が入った。動画を見ていた僕にとって邪魔でしかなく、それを消そうとしたところ、逆にそのページへ飛んでしまった。
「ああ……何が起こったんだ? レジ袋やスプーンを通り越して、スマイルが有料化したか? それとも聖火リレーとか何だか、僕が走者になったりしてるとか……?」
ありもしないだろうと言うか、あんまりあってほしくないことを並べて、そのページが出るのを待っていた。全力で指を動かし、動画サイトに戻ろうとしていたのだが。
僕の体は動かなかった。
書いてあった記事が今さっき自分の考えていたことと似ていたから、だ。いや、スマイルどころか喋ることまで二酸化炭素を排出するからってことで有料化になったり、ついに野良猫が聖火リレーの走者にされていたりとか、そう言うのはあるけれどね。
それ以外にもとんでもない話題があった。
『今日、市内で何人もの人が尊死している状態で発見されました。人類は至高を感じると爆発するようになったのです。体がチカチカ光り始めたら、要注意! その時は動画や画像の視聴を止め、すみやかに目を閉じて無心に』
そんな馬鹿な。今日は四月一日ではないが、エイプリルフールの企画だと思ってしまった。きっと、そうに違いない。尊いものを見たからと言って、実際に死んでたまるか。
嘘だと思い込もうとする。こんなのを無視して、今まで見ていた動画の続きを見よう。
ああ、この癒しが何とも言えぬ。尊いとはこのこと。胸がまたも騒めいた。
最中、僕の体はチカチカ点滅し始める。も、もしかして本当に人間は尊さを感じて、死にそうになるのか。
爆発は嫌だ。怖いと僕はスマートフォンを放り込んだ。目を閉じれば、良かったよな。そう思い数十秒間暗闇の中で目を閉ざし、開けてみるも体の異変は止まらない。ノンストップで僕に恐怖を与えてくる。
そうだ。もう一つ条件があった。無心になること。まだ体が火照って、尊さを感じている。あの銀髪のヒロインに燃えている。推しが燃える話は聞いたことがあるが、推される側が燃えてたまるか!
僕はすぐさま、外を駆ける。走れ! 走れ! 走って無心になれ。いや、違うことを考えるのもOKだろう。
どうして、僕が聖火リレー走者になれないんだ!? 有名人とか、結構やりたくないって人増えてるんだから、僕にお鉢を回せよ。何で猫にその大役をお願いしちゃってるの!?
何で喋ることまで有料化しちゃったの!? ってか、一言幾らなんだよ!? 誰がそれ儲けてるの!? 政府? それとも、店側!? 僕にも金をくれぇ!
河原を全速力で走る。それはもう日光が反射して、中に宝石が落ちているかのように光る川の中も足を踏み入れる。そこで一旦、止まって川の水を頭にかぶる。
「うわぁああああああああああああああああああああああああ! 忘れろ忘れろ!」
頭を冷やして、滅茶苦茶なことをする。それで心から、尊き存在は消えていく。もう、これで問題はない。
尊きことを感じることもない。スマートフォンも水没させて、尊き画像を全て消去した。
仕方ないよね。命に代えられないもの……。そう思い、僕は家に戻ろうと河原の土手を見た。
二匹の三毛猫が毛繕いを始めていた。
あっ、ダメ。それはずるい。
僕は胸に矢が刺さったような痛みを受け、そのまま爆発した。
尊き 夜野 舞斗 @okoshino
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