決勝戦
決勝戦 ホホジロザメ対ヒト
とうとう決勝戦。映画「ジョーズ」を始め、幾度となく銀幕で演じられてきたヒトとホホジロザメの戦いが天界でも繰り広げられる。
アメリカブタバナスカンクとアリゲーターガーを食らってなお、ホホジロザメは腹を空かしているようだ。水場を泳ぎ回って餌を探している。実は単に餌を探しているというだけでなく、サメの仲間はごく一部の例外を除いては泳ぎ続けていないと沈んでしまうため、体を浮かせるために仕方なく泳いでいるのだ。
一方、ブリーフ一丁のおじさんは、相変わらずじっと体育座りをしていた。時折木に生っている果実を齧って飢えをしのぎながら、不安げな顔で気もそぞろに視線を左右させている。
このおじさんはホホジロザメの存在に、全く気付いていなかった。彼の頭の中は、明日の仕事のことでいっぱいだ。
そのおじさんを、ホホジロザメは目ざとく見つけた。陸にいる生き物だが構わない、それ食ってしまえと、ホホジロザメはあの特大ジャンプをしておじさんに襲いかかった。
おじさんは間一髪でサメの攻撃をかわした。砂の地面に尻餅をつき、怯えた目でサメを見つめている。
サメは、地面に着地したまま動こうとしない。首を曲げて水場へと戻ろうとしているのは分かるのだが、その動きは緩慢そのもので、弱っているのは明らかだ。
サメは着地の衝撃で、内臓を著しく損傷してしまっていた。先のアメリカブタバナスカンク戦の時点ですでに負傷していたのが、此度の着地でとうとう致命打になってしまったようである。
結局、サメの自滅により、勝負は決定したのであった。
こうして、壮大な茶番は終幕した。神々の間では失望と落胆が席巻した。
そんな中、天空神がフィールドに舞い降り、おじさんの目の前に姿を現した。天空神は純白のキトンを身に着けた男の姿をしていて、顔は白いひげに覆われている。その体から放たれている光は、まさしく神々しいという形容詞がお似合いであった。
「此度は神々の戯れに付き合ってくれてご苦労であった。褒美を取らせよう。望みを言え」
「えっ……その……」
急に言われたおじさんは、あたふたして何も答えられなかった。そのうち、おじさんはある違和感に気づいた。
お尻の辺りが、やけにすーすーしている。そっと自分の尻に手を触れて見ると、ブリーフに大きな穴があいていることが分かった。何とも恥ずかしい限りである。
……取り敢えず、破れたブリーフをどうにかしなければ、落ち着いて話ができない。
「取り敢えず、新しいパンツが欲しいです」
「よし、願いを叶えてやろう」
「あ、え、違います! ああっ! そうじゃないんです!」
おじさんは慌てて先の言葉を取り消そうとしたが、もう遅かった。神々しい男が手をかざすと、視界は白い光に包まれた。
***
風呂からあがり、体を拭いたおじさんは、いつものようにブリーフを履いた。さっきまで、何かとんでもないことに巻き込まれていた気がする……そう思ったが、何も思い出せなかった。
明日は仕事だ。これから繁忙期になる。その前に景気づけであの酒を開けるか……そんなことを考えながら、おじさんはパジャマを身に着け、リビングへと戻ったのであった。
第一回最強動物決定戦 武州人也 @hagachi-hm
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