第20話 人形の私が芸能界を生き残る方法①



 久しぶりにフルダイブして最初の思ったことは『体が死ぬほど軽い』だった。その場で右足を軸にクルクルと回転しても太ももを胸部に当てるぐらいの大ジャンプをかまそうと全然疲れない。



 当たり前っちゃ当たり前なんだけど、どれだけ激しく動いても眩暈を起こさない仮想肉体に感動を覚えた。好き勝手に野原を駆けるのがこれほど心地いいものだったのか。そして同時にどれだけ自分が疲労していたのを自覚した。



 フルダイブ中は緊急以外の肉体信号を遮断して意識だけを仮想現実に転送するため、体の自由が効かない人や重い病気を患っている患者などに医療用として徐々に浸透していっているとも聞く。



 懐かしさを感じつつ二か月前よりも明らかに物件が増えた田舎町を歩いていたら――なにやら公園で腕を組んだ男性がいた。



「お。久しぶり」



 驚きも感動もない淡々とした口調で、私を一瞬だけ見るとすぐに公園作りの没頭する。街を変装しないで歩くだけで一般人の囲いが出来上がる私としては考えられないぐらい雑な扱いだった。いやもうちょっと何かあるだろ。どうしたの? とか大丈夫? とか心配してよ。私に好かれようとは思わないの?



 ……まぁ、こういうやつだったね。二か月経ってもちっとも変わってない先生にほっとした気持ちになったのも事実だった。この感覚は、久しぶりにおばあちゃんの実家に帰った感覚と似ている。



「なにしてんの?」私は気を引かせるために肩が触れるぐらいの距離まで近づいた。あ、ちょっと驚いた。笑える。



「……公園の遊具を作ってる。錆の表現で少し手こずってる」


「わぁ懐かしー! 最近全く見ないよね。この地球儀みたいなグルグル回る奴」


「正式名称は『グローブジャングル』っていうらしい。子供の頃遠心力でぶっ飛ばされて顔面血だらけになった事があるな」



「あははは。確かにアレ今思えば滅茶苦茶危なかったよねー! ちょっと遊んでもいい?」



 私は鉄のような性質を持つオブジェクトを握って回転させようとしたが――ピクリとも動かない。



「動かないじゃないの」


「そりゃ危ないからな。遊戯禁止だ」



 先生がグローブジャングルの根本を指さす。見ると鎖が何十も交差されてガッチリと動かないように固定されていた。



「何それッ!? 作った意味ないじゃん!」



 よく見るとブランコもグルグルに柱に固定されてちゃんと遊べるのは鉄棒と不潔そうな砂場ぐらいだった。何この悲しすぎる公園。どういう頭してたらこんな悲壮感漂う場所を作れるの。



 もはや公園というより広場としか機能していない。子供が遊ぼうとしてもサッカーぐらいしか……あ、駄目だ! 球技禁止って書いた立て看板がある! 容赦ねぇ!




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田舎を作ろう~フルダイブRPGで出会った現役アイドルと最終的に結婚する話~ 阿賀岡あすか @asuka112

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