恩赦で迎えるニュー・ライフ 二十一回の死刑を耐え抜き、男は新しい人生の出発を夢見る!
荒木シオン
二十一回目の処刑
エクテレス帝国。
大陸に
その帝都カズー二は、まさにこの世の楽園と
そんな帝都で今一番の話題は、とある死刑囚について。
元々は周辺諸国の小国家で騎士団長を務めていた男だった。しかし、愛した国は帝国に攻められ、敗戦と
その
――男は未だに生きていた。
彼を死に
一般的な
帝国が周辺諸国を
そうして、事ここに
ただの
などなど
すると誰かが言い始めるのだ……。
もう、ここまで耐えたのなら許してやるべきではなかろうか、と。
男には天から授けられた偉大な使命があるのだ、と。
それら民衆の声は次第に大きく、強くなり、ついには時の皇帝イムベラ・トールを動かした――、
――二十一回目の刑、それを乗り越えたなら、かの男に恩赦を与え解き放つ、と。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど、事情は分かりました……よもや何事かと思えば、まったく呆れる」
今しがた
だというのに、そんな存在の足元には帝国の
なぜなら、目の前にいるこの者こそ、例の男を確実に処刑するべく帝国が
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
案内に数名の騎士を
そうして、そこで目にしたのは
「ふぁ~、なんだい? また刑の執行かい? って? おやおや、今回の処刑人様は随分とお美しい……。ははっ、こんな美人が看取ってくれるとか
こちらを
「なるほど、お前にはそれほど私が美しく見えますか……」
「あぁ、
やれやれと肩を
そんな両者のやり取りを
「なるほど……なら、今から街へ行きしましょうか。貴方が私をどう口説くのか少々興味があります」
そう言って鍵を手に取り、今にも牢の扉を開けようとする彼女を、騎士たちは慌てて止めに入った。
「お、お待ちください! この者は死刑囚です! それをなんの許可も無く解き放つのは!」
「う~ん……そういうわけではないのですが……。あと許可であればこの通り」
懐から取り出された一枚の羊皮紙。そこに記されたのは【この者のなすことは皇帝のそれである】の短い一文と
それらを目にした騎士たちは恐れおののき、急いでその場に
「おい、アンタ、いったい何者だよ?」
「さぁ? ただの死刑執行人ですよ?」
困惑する男に彼女は微笑み、からかうようにそう言葉を返す。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、風呂に入って身を清め、与えられた
「うおぉぉおおおおぉ!! 外だ! シャバだ! 空気が
「気持ちは分かりますが、私のエスコートを忘れてもらっては困りますよ?」
束の間の自由を手にし、子どものようにはしゃぐ男を執行人がチクリと注意すれば、
「あぁ! 任せとけって! 軍資金もたんまり
彼は金貨の詰まった革袋を掲げ、彼女の手を引き大通りを笑顔で進む。
二人とすれ違う誰もが、彼らを死刑囚と執行人だとは思いもしなかった……。
数刻後。手持ちの金の
「いやぁー、今日はアンタのおかげで最高だったな! こんな日々が続くなら死刑囚も悪くない!」
「ふふっ、そうですか……私も意外と面白い経験ができて楽しかったですよ?」
相変わらずの軽口に、彼女が冗談めかしてそう微笑むと、男はその手を取り、
「なぁ! 俺は、今は死刑囚だが、あと一度! あと一度だけ処刑を耐えれば、
夕陽に照らされたその顔を見つめ、真剣そのものといった様子で告げる。
そんな彼に執行人は小さく頷くと、お互いの唇をそっと重ねた。まるで、それが約束の印であるかのように――。
――しかし、次の瞬間、男はその場に力なく倒れてしまう。
「今回は、耐えられませんでしたね……」
横たわる男を優しく
帝国法に記された数々の死刑方。
その最後、二十一番目にはただ一言「死神のくちづけ」とだけ書かれている……。
完
恩赦で迎えるニュー・ライフ 二十一回の死刑を耐え抜き、男は新しい人生の出発を夢見る! 荒木シオン @SionSumire
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