第2話

 私にはじめて恋人と呼べる人ができたのは大学生のときだ。

 一つ年上の同級生でとても背の高い男性だった。大学の演劇サークルで出会い、一月後には告白をされて付き合いはじめた。

 彼にことはよく知らなかったが、練習に真面目に取り組む姿勢に好感を持っていた。話しやすい気さくな雰囲気で、何より告白されたことがうれしかった。

 そして、二ヶ月後には、別の人を好きになったと別れを告げられた。

 多分、このときに「しゃべらなきゃいいんだけどな」と言われたのだと思う。

 晃子さんとはじめて会った日、喫茶店では少しすましていたけれど、焼肉店ではすっかり素になっていた。大口を開けて焼肉を頬張り、ビールをガブガブ飲んだ。だけど、晃子さんは、それで私に幻滅することはなかった。

 むしろ、喜んでいるように見えた。

 二人目は、友人に連れていかれた合コンで知り合った男性だった。

 最初の彼に「しゃべらなければ」と言われたから、二番目の彼の前では口数少なくいい女を演じ続けた。

 仮にも役者を志している身だ。ちゃんと演じられていたのだろう。

 だからその彼とは一年ほど付き合うことができた。

 けれど私は彼の前で演じ続けることに疲れていった。

 彼といても楽しいと感じることがなかった。だから私は彼に別れを告げた。

 別れ際、彼から「なんか、つまんなかったな」と言われた。

 晃子さんと出会って一年が経っても、疲れたと感じたことはない。晃子さんと会うのはいつだって楽しい。

 三人目の彼は就職してから出会った人だ。三歳年上の男性で、学生時代演劇をしていたため、役者を目指す私のことを応援してくれた。

 けれど、大学を卒業して役者を目指せるタイムリミットが迫っていることを実感していた私は焦っていた。

 仕事以外の時間のほとんどを稽古とオーディションに費やしていた。

 彼と会う時間は減り、たまに会っても、ホテルに行ってセックスをするだけになっていった。

 心身ともに疲労していた私は、彼とのセックスが苦痛で約束をキャンセルしたこともある。彼と会うのが月一ということもあった。

 もう役者は諦めろ、芝居はやめろと言った彼に、私は別れを告げた。

 晃子さんとはじめて抱き合ったとき、あまりの気持ちよさに怖くなった。あんなに心と体が満たされたセックスははじめてだった。

 役者を諦めてもなお、劇団に所属し続ける私を晃子さんは責めない。稽古を理由に誘いを断っても、怒るどころか稽古場に差し入れを持ってきてくれる。

 これまで女性を好きになったことはない。だけど晃子さんと出会って、今まで女性と付き合ったことがなかったことの方が不思議に感じるほど、自然に自分の気持ちを受け入れることができた。

 私は晃子さんが好きだ。

 これまで出会った誰とも比べられないほど、晃子さんに焦がれている。

 けれど、晃子さんは私に好きだとは言ってくれない。

 セックスの間の戯言ですら、その言葉を言ってくれない。

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