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 ベッドで横になり、頭までかぶった布団のなかで僕はそのままSNSを開いた。先生との話よりわかったことがあった。このアプリには投稿を人にシェアする機能、投稿主をお気に入りとして登録する機能、そして投稿に向かって感想や意見をする機能があると。この三つのものは反応を受けると通知としてスマホに表示されるらしい。ただ僕と昨晩やりとりをしたメールのような機能は表示されないという何とも不思議なものだ。


 僕の投稿の下にある三万という数字はシェアされた数字を表しているらしい。正直この数字が多いのか少ないのかわからない。貧困の女の子に感化され思いをぶつけたものが世に出回る。これは恥ずかしさもあるが、正直嬉しさもあった。そして僕をお気に入りとしてくれている人も五千人にまで増えていた。だが嬉しいだけでなく困ったこともある。


 一つは、その拡散された投稿の内容だ。内容はこうだ

『最近の政治家は年寄りしかいないから老人が優遇される政策しかない気がする。もっと若者を尊重した意見や、興味を引く意見をだして政治に反映してほしい』

こんな投稿が世に広まったと思うとかなり恥ずかしい。こんな感情的な投稿がなぜここまで広がっていくのか理解できなかった。もう少しかわいい動物の動画や、素晴らしいイラストといったようなもので世の中にでてほしかった。


 二つ目は名前だ。中学生のときこんな僕たちもネットリテラシーというものを学んだ。そこで学んだ個人情報をむやみに出すべからずというものが頭の片隅にあった。でもそんなに冴える僕では名前などすぐには思いつかなかった。三十分近く考え、京田聡明→きょうだそうめい→きょうそ→教祖と特定されないような名前にした。しかしそれが思わぬ仇となった。そんな大それた存在でもなく、十数年しか生きてない僕にはとても恥ずかしいものだ。

『教祖さんの意見とても感動しましたその通りだとおもいます!』

『世の中のいいにくいようなことを言ってくれてとても爽快です。これから教祖さんらしい投稿を応援しています。』

そのような感想たちを見るたびにとてもむずがゆい気分になる。


「こんなもの絶対みんなにばれたらいけないな」

誰にも聞こえない声でそうつぶやき疲れを癒すため眠りついた。


 一睡しクラスに戻るとみんなからたくさん声をかけられた。その中には思わぬ人もいた。

「あら京田くんあなた大丈夫なの体調?」

「えっとーあ、うん大丈夫だよ心配してくれてありがとうね」

いつもは僕からしか話をしないのに、羽元さんが話しかけてきた。周りも驚いてるようでこちらに注目している。

「心配なんてしてないわよただ遅刻のご身分で寝不足が原因で休むなんてねと思ってね」

「あはははですよねー」

そんな嫌味もこの笑顔で言われたら反則だ。

「あ、あのね、、、!」

「聡明大丈夫か!?メシ食いに行こうぜ!」

「OK今行くよごめんねそれじゃあ!」

羽元さんがなにかいいたげだったが気のせいだろう。そのまま僕は後藤君たちのもとにむかった。


「聡明体調はもう充分か?」

「うん大丈夫だよ心配してくれてありがとうね。」

僕が保健室で寝てから約二時間たっていた。現在昼休み僕たちは食堂でご飯を選んでいた。ご飯といってもメニューは『ラーメン』『カレー』『牛丼』の三種類しかない。こんな田舎の山の上の学校だ。食べ物を運ぶのも一苦労だ。レパートリーが少ないのも仕方ない。


「黒と聡明君はなににする?俺はいつも通りラーメンかな」

彼は最上遼君。後藤君と同じサッカー部で二年生から話すようになった。

「俺はカレー。ここのカレーはどこよりもおいしいからな。聡明はどうする?」

「なら僕は牛丼かなまたみんなで分け合おうか」

僕たち三人は、毎回こうやって違うメニューを頼んで分け合って食べている。いつからそれを始めたが覚えていないが、毎日の恒例行事になっている。

「そういえば聡明なんで夜更かしなんてしてんだ?しかもメールにも返信しないくらい集中して」

「山本先生の政経の課題やっていたんだよ。あの課題少し大変で苦労したんだよね」

僕はそう答えた。事実ではないが嘘でもない

「本当偉いね聡明君は。俺と黒なんてめんどくさくてやらなかったもん」

「でも結局保健室いってたから発表できなかったの聡明らしいな」

「たしかに」

三人でそんな笑い話をしているとあのSNSのことを思い出した。この二人はあれのことを知っているのかふときになった。少し二人に話題を振ってみた。

「そういえばSNSとか、最上君と後藤君はやったりしている?」

二人はキョトンとした顔でこちらを見てきた。

「えすえぬえす?俺は使わないかなーあげるものもないしネットってなんか怖いしな」

「あーその気持ち俺もわかる。なんか怖いよな犯罪に巻き込まれそうであとサッカーで忙しいからな俺たちは」

確かに僕も利用する前はそんなイメージがあった。二人にいわれて改めて危険性について不安になってきた。

「急にどうしたんだそんなこと聞いてきて?朝からへんだぞ?」

「い、いやさっき甘木先生とそういう話になったから、、、」

「あーあの先生は確かにやりそうだよな」

「わかいもんね甘ちゃん先生」

そんなやりとりをして改めてあのアプリは消そうと思った。冷静に考えると、顔のわからないような人とやり取りをするのは怖い。家に帰ってから消そうと心を決め、僕たち三人は、ご飯を済ませた。

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そして彼は教祖になる 瑞穂リョウ @O2RY

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