課題を終えて一息ついていた。実際調べてみても正直ピンと来ないものばかりだった。今回調べた保育園が足りないというものもそうだ。僕たちの町では保育園は一つしかないが事足りている。新聞やネットでかなり取り上げているのをみてまとめたものだ。


「はー都会ではこんなことが問題になっているのか」

人ごとのような話をレポートにまとめネットサーフィンをするとある記事を見つけた。記事の内容は、最近あった汚職事件に関するものだ。政治になんて興味がなかった僕でもこの記事には目を引かれ、そこから様々な情報をさがしていた。それは知的好奇心なのかなんなのか僕にもわからない。


 これを機に柄にもなくSNSをはじめてみた。この町で正直映えやバズリなんてほど遠いものだ。しかし情報を集めるうえではこの上なく便利なことに気づいた。ネットの情報や意見の中で、どうしても政治家に対するやるせない気持ちや怒り僕の中から湧いてきた。特に同い年の女の子が貧困に苦しみ、上の年代だけが有利という記事は強い共感を得た。


約3時間前に新規登録をおこなったこのアカウントで設定を行い、先ほどの女の子の投稿に反応を示した。女の子からの返信で少し会話したころ僕の中の世の中への憤り理不尽さ呆れは、頂点に達していた。怒りに身を任せ文字を打ち投稿するとそのまま布団にダイブした。


 「何をしているんだ僕は」

ふと冷静になると怒りは多少静まっていた。スマホの画面をみてこの投稿をどうしようかと考えたがそれどころではなかった。

「今日は本当に疲れたなーなれないことなんてするもんじゃない笑」

ここまで何か感情がうごいたのは久々の感覚だった。怒りや憤りといった負の感情で気持ちの振れ幅が大きく疲れてしまい睡魔も襲ってきた。

「今日はねてこの投稿は明日どうにかしようー」

そんな独り言をつぶやきながら僕は床についた。


 朝ふと目が覚めたら時計の針は七時四十五分を指していた。遅刻ではないがいつもよりかなり遅い時間だ。大慌てで朝食学校の準備をし、家を出た。シャワーも浴びてないため寝癖はぼさぼさで、急いでいたためネクタイも不格好。四の五の言っている暇はなくローファーを履きドアを開けた。

「いってきます!!」


 大きな音で扉を開けると数人がポカンとした表情でこちらを見ていた。

「みんなおはよう!!」

「京田くんがこんな遅いなんて珍しいねどうしたの?」


「聡明、襟たってるダサいぞ」

そんなクラスメイトの声に適当に返事をしながら席に着いた。息を整えながら身なりを整えているとニヤニヤしながら後藤君が話しかけてきた。

「聡明が遅刻なんて珍しいななんかあったん?」

「珍しく夜更かししてたからかなたぶん」

「お前も夜更かしするなんてことあるんだな。でも俺のメールに返信してくれなかったのは悲しかったぜ!」

「ごめん僕も忙しくてね今確認するから許してよ」


 そんな笑い話しながらスマホの電源を入れた。母やクラスメイト、後藤君からメールの通知を確認しようとすると見なれないものが目に入った。

「え、なにこれ?」

「ん?どうかしたか聡明?」

後藤君に返事をしようとすると担任の山本先生が入ってきた。

「迷惑メールが届いて驚いただけだよ気にしないで」

「OK了解した」

ひそひそ声でそう伝え朝のHRが始まった。


 今日の授業は全く集中することができなかった。後藤君には迷惑メールといったがたぶんその類いのものではない。一般的な迷惑メールは有名人を装ったものや、エッチな言葉でクリックを誘うものがほとんどだ。だが今回は僕に対する、共感や同調といったプラスなものばかりだった。それが余計僕を混乱させって言った。動揺していた僕に皆声をかけてくれ保健室で一休みすることにした。


「失礼します。」

「はいっていいわよこんにちは」

保健室に入るとそんなハスキーな声が聞こえた。保健室の主、甘木先生は僕たちと歳が変わらないような若い先生である。成人したら都会に出ていく人が多いこの町でとどまるのは大変珍しい。

「どうしたの今日は?」

「実は寝不足みたいで少し授業に集中できなくて」

嘘をつくのはとてもはばかられが自分の問題だと思い適当な言い訳をした。

「SNSでもいじっていて寝不足になったんじゃないの。まぁいいわ少し横になりなさい」


先生の口から出てきたことその言葉に強い衝撃を受けた。先生にだったら相談することもありだと思ったので少し探りを入れてみた。

「先生も何かやっているんですか?SNS」

「私?やっているわよこれ。ただこの町にいても別につぶやくことないし仕事の愚痴ばかりになちゃうしね。あとこういう通知がうるさいかな」

といって見せてきた画面には昨晩僕がいれたものと全く同じアイコンのものだった。そしてこの通知も、僕の元に届いていたたくさんの称賛だらけの迷惑メールといっしょのものだった。


「こ、この通知って何を表しているんですか?」

震えた声でそう言うと先生は優しく教えてくれた。

「あーこれ?これはその人の投稿への反応やお気に入りマークや意見を表しているのよ。例えばこれは私のこの投稿に友人が返信しているのよ」

「な、なるほどわかりました。すいません眠気がひどいのでもう寝ていいですか?」

そうして話を終え、先生に指示されたベッドに僕は倒れこんだ。


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