そして彼は教祖になる

瑞穂リョウ


 『最近の政治家は年寄りしかいないから老人が優遇される政策しかない気がする。もっと若者を尊重した意見や、興味を引く意見をだして政治に反映してほしい』


 ある年の五月、SNSにかきこまれたこの投稿が日本中に拡散された。内容もあり批判の声があがるなか、それを超える数多の称賛は若者を中心に広がっていた。それを皮切りに、アカウント主は様々な投稿意見を発信していった。そして彼はいつしかこう称えられるようになった。教祖と。


 満開だったソメイヨシノも咲き終わり、緑が芽吹いていた。都会とはかけ離れたこの田舎に僕は住んでいる。名前は、京田聡明。僕は良くも悪くも平均的だ。成績体力ともにクラスと学年通しても真ん中。身長171cm体重61kgといったこの体格も、全国平均と一緒。友達からあげられるいいところも『優しいところ』と当たり障りないもの。最初のほうはこの無個性に嫌気がさしていた。しかし、思春期も落ち着いてきた今ではそんな自分を愛せている。


 学校は山の頂上にある。山といっても高いものではないが、それでも軽い山登りと一緒だ。僕たち生徒たちは、毎日汗を拭いながら登校している。

「よう!聡明おはよう!」

「おはよう後藤君」

後ろから聞こえてくる明るい声に僕は振り返った。声の主は後藤黒君。入学式の日後ろの席だった彼が話しかけてくれて仲良くなった。

「毎日言っているけどその君付けやめろよー距離感じるぞ」

「だって後藤君は後藤君だよ。呼び捨てできるよう頑張るからもう少しまってよ」

「絶対約束だぞ!よろしく頼むぞ」

そんなたわいないやり取りをしながら僕たちは学校に向かった


「みんなおはよう!」

「聡明おはよう」「京田チッス!」「聡くんおはよう」

みんなに挨拶してから僕たちは席に着いた。こんな僕にも声をかけてくれる友達はいる。後藤君経由ではあるが、多くの人と会話をしてみんなと仲良くなれた。でも、そんな僕にも仲良く話せない人はいる。


「羽元さんおはよう!」

「私に毎日はなしかけないで」

それがこの女の子羽元光さんだ。モデル体型で整った顔立ち。こんな田舎には似合わないような女の子だ。クールで周りに対しても少し冷たい。でもそこがいいという男子がたくさんいる。彼女が一言『お腹がすいた』とつぶやくだけで周りの男子が食べ物を献上した。という伝説まである。流石にそれは嘘だと思うが、、、


「お前はまた羽元ちゃんになにかしたのか?聡明」

「うるさいあなたには関係ないでしょう口出さないで後藤」

「はいはいすいませんねー」

「僕が気をわるくさせたのかも、、、ごめんね」

 羽元さんは前述したとおり、みんなに冷たい。だけど僕と後藤君に対する態度は他よりもっと冷たい。羽元さんはそのまま気を悪くしてしまったのか廊下に出ていってしまった。


「俺に冷たくするのはわかるけど聡明にまで冷たいってお前本当になにしたんだよ笑」

「いや僕もみに覚えがないんだよね、、、笑」

「まあいいや席に戻ろうぜ山ティーがくるぞ」

そう言って朝のHRに備え僕たちは席にもどった。


 そこから時間はダラダラ過ぎ、下校時刻。たしかに僕は成績は普通だけど、授業を受けるのは好きだ。前の席の後藤君は体育以外のほぼ寝ているけれど。別にすべての授業を理解しているわけではない。英語の関係代名詞や、数学の微分積分、物理の電磁気etc。一見何も将来に影響しないものでも僕は知識を蓄えられている気がしてなにか高揚感があった。


 後藤君と帰路についていた頃。

「そういえば後藤君。今日政経の授業で課題出ていたよ」

「げ!マジかよ、、、インテリゴリラ余計なことをしやがって」

僕たちの担任山本先生は政経の担当だ。学生時代ラクビーの選手だったこともあり、ゴリラのような図体をしている。誰もが最初体育科の教員かと思っていたが、専門は政経。また教え方も一級品で、どんな質問に難なく対応する様からインテリゴリラと呼ばれている。

「んで課題の内容はなんだった?」

「確か社会で政治家が一番力を入れている問題とその理由かな」

「はーなるほどね。でもそんな問題こんな田舎街の俺達には関係なくない?」

「う、うんそうだね笑で、でも課題だからね」

「そうだけどさーだるいなー」


 後藤君と別れ、さっきの会話がふと頭によぎった。僕たちの町は、人口500人にも満たない田舎町。だから必然的に東京のような都会とは様子が違う。街にある病院、スーパー、幼稚園は町内1つ。コンビニも24時間営業などあり得ない。だからだろうか。社会で問題とされていることは正直実感しないのだ。どうしても都会のことだと他人事になってしまう。


「ただいまー」

誰もいない家でわざわざ声を上げるのも変な感じだが幼いころからの習慣になっておりしかたない。父母は電車でほかの町まで働きに行っている。こんな町でも生活するにはお金が必要だ。きっと帰ってくるのは日をまたいでからだ。さっさと自室に戻り着替えを済ませ、僕は課題に取り組んだ。


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