あったかい朝ごはんは健康にいいゾ
田村サブロウ
掌編小説
「だまされたー!! げふっ、げふっ」
ポリ太郎は憤慨していた。
38度の高熱を出して布団の中にこもり、マスクの下で咳を出しながら、それでもから元気いっぱいに怒っていた。
「おーい、ポリ太郎。卵がゆ作ってきてやったぞ。食うか?」
「ワオ、タケル! 感謝するぜサンキュー! いやー、普段はオイラに勉強おしえてって泣きつくアホのくせにたまにはやるな」
「…………」
「あ、ごめんごめん! 帰らないで! 感謝しているのはホントだから! ホントありがとう、優しい優しいタケル君! おねがい、卵がゆ持って帰らないで~!」
隣人の少年タケルはお盆で卵がゆをポリ太郎の横に運んだ。
一緒に添えてあるスプーンで、さっそくポリ太郎は卵がゆを食べていく。
「はふはふ、あちち。んまい。タケル、料理の才能あるぜ」
「ポリ太郎、病気の時くらい頭にポリバケツかぶるのやめないか?」
「ノー! これはオイラのシンボルなんだ……失礼、げふっげふっ」
「お大事に」
ポリ太郎が食事に専念して卵がゆをもくもくと食べていくこと、数分。
ふと、タケルは気になることができた。
「ところで、なんでさっき『騙された』なんて叫んでたんだ?」
「おお、よくぞ聞いてくれた! オイラ、ネットの健康法に騙されたんだよ~」
「健康法?」
ネットは良い情報もあればただのガセ情報もあるから、使いこなすには情報の取捨選択が必要になる。
タケルはポリ太郎のネット情報の審美眼をまだ知らない。ゆえに少し、ポリ太郎の話に興味がわいた。
「ググって知ったんだけどさ。朝には温かい朝食を食べるといいらしいんだよ」
「ふんふん」
「起き抜けで冷えた体には、あったかい食いもんを補充して温めて、エネルギーチャージするのが健康にいいんだと」
「なるほどな」
少々言い方にくせはあるが、ポリ太郎の言うことは的を得ていた。
タケルも朝食は温かいものを食べるほうが、冷えたシリアルを食べたときより元気が出る。特に冬はそうだ。
ここまでタケルが聞く限り、ポリ太郎の話はガセネタには聞こえなかったが。
「だからさ。オイラ、ここ一週間の朝食をカップラーメンにしたんだよ」
「はぁ!?」
ポリ太郎の話が一気に怪しい方向に転がり、思わずタケルは大声を上げてしまう。
「ほら。あったかいメシってのはなにかと手間がかかるもんだろ? だからいっそ手間のかからないカップ麺にしてやれば、めんどい作業なく健康になれる完璧な一手のはずだったんだよ!」
「……」
「なのに結果は、風邪ひいて寝込むオイラの無様ぶりだ、げほっげほっ。……どうしたタケル、笑いたきゃ笑えよ」
「アホかぁー!!」
手をわきわきさせながら、タケルは立ち上がって魂の叫びを上げた。
「毎朝カップ麺って、そりゃ体こわすに決まってんだろ! んな健康法、ネットの中にもあってたまるかい! やいポリ公!」
「は、はい。あ、いえ、ポリ太郎ですが」
「カップ麺を朝に食べることは、ネットの健康法に載ってたのか?」
「い、いや。ネットには野菜のスープを摂るといいとか、なんとか書いてた。めんどくさかったから、オイラなりに健康法をアレンジして」
「アレンジするにしても、せめて生の料理でやれ!! 横着すんな!!」
「そんなご無体な!」
「だまらっしゃい! 炊飯器で予約したごはんと作り置きしたみそ汁なり、トーストとレンチンしたホットミルクなり! やりようはいくらでもあんだろーが!!」
「うわーん、タケルが怒ったよー!」
「そりゃ怒るわ! 健康法なめんなー!!」
この後、若き自炊使いの血が燃えたタケルの手により、数時間の間ポリ太郎に料理のレクチャーが行われたという……。
* * *
余談。
朝にあたたかい朝食を食べると良いこと。これ自体は本当である。
人体は朝に一番体温が低い状態にあり、空腹で血糖値も下がっている。ここで体をスムーズに起こすには、冷えた体を温めつつ栄養を補給できる温朝食が良い。特にさむ~い冬ならなおさら効果的だ。
トーストにコンソメスープを添えるだけでもだいぶ違うので、読者諸君も試してみてはいかがだろうか?
あったかい朝ごはんは健康にいいゾ 田村サブロウ @Shuchan_KKYM
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