冒険者は身体が資本

チーズフライささ美

冒険者は身体が資本

 勇者のパーティは過酷だ。魔物が絶え間なく襲ってくる旅路を進み、街であらん限りの憂さ晴らしとして豪遊する。勇者は酒臭く、魔法使いはヤニ臭く、僧侶は女物の香水とイカ臭い。さらに言えば、王様からの支度金を勇者は全額ギャンブルでスった。退治した魔物の部位を売った金でなんとかやりくりしている。


 そんな中、戦士は「テキーラ一気できないとかノリが悪い」というだけで勇者からパーティを追放された。酒もタバコも女もギャンブルも、積極的には嗜まない。そんな戦士でも、久しぶりに夜に寝て朝日の光で起きるという経験をした。


 戦士は魔王を倒す以外に何をすればいいかわからなかったので、昼間は街の困りごとを聞きつつ鍛錬をした。要は便利屋だ。走り込みのついでに迷い猫を探し、老人の荷物を持ちながらスクワットをする。安宿の食事がいつもよりうまく感じた。


 そうして日銭を稼ぎながら一か月が過ぎた。勇者のパーティが仕留めそこなった魔物が、街へやってくる。巨大な牛と馬のミックスされたような魔物は、門番を門ごと跳ね飛ばした。戦士は剣を持ち、魔物と対峙した。


 結論から言えば戦士が圧勝した。早寝早起き、適度な運動、安宿の野菜多めな肉スープ。睡眠と運動と食事が揃った戦士は、完璧な体調で魔物に向かうことができたからだ。そもそも、勇者のパーティに選ばれるぐらいの実力は元々持っていた。しかし、不健康な勇者についていくうちにだんだんと健康が損なわれていく。睡眠不足はふらつきと注意欠陥を呼び、魔物との連戦で過労寸前。味付けが濃く脂っこい肉ばかりの食事で、血圧と血糖値がぐんと上がった。結果、不健康な戦士は勇者たちについていくのが精いっぱいとなっていたのだ。


 しかし今は健康そのもの、実力以上の力が出せる。戦士はふかふかの寝袋とバランスのいい保存食を持って、ランニングしながら勇者たちの後を追った。もちろん、追放されてからの健康的な生活リズムは崩さずに。


 勇者を追っていたら魔王城までたどり着いてしまった。最奥の間では、二日酔いの勇者がゲロを吐いていた。魔法使いはニコチンが切れてイライラのあまり魔力を無駄遣いしてMPも切れていた。僧侶は性病で死んでいた。


 困惑していた魔王は、戦士を見つけると喜んで襲ってきた。動きも素早く筋力も尋常ではない。魔力も潤沢で、戦士はあと一歩のところまで追い詰められた。しかし、魔王が急にもだえ苦しみ始めた。震える手で黒マントの内側から注射器を取り出すも、振動で落としてしまう。戦士がうっかり注射器を踏み壊してしまうと、魔王はかんしゃくを起こしたのち倒れた。魔王は薬物中毒だった。


 魔王討伐凱旋パーティーで、戦士はこう答えたという。「やはり健康は大事です」と。

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