畜生!21回目の潜入。門番は倒れず、テログループがまたやられた!なんなんだ!あの門番は!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 ファンタジーでも、アクションでも、ミステリーでもホラーでも、大概最初の被害者は見張りや門番だ。

 彼、彼女らがやられるところから事件は起きる。

 見張りがやられて建物占拠や兵器の奪取という事件が起きて、主人公はそれに巻き込まれて、『爆発』『炎上』最後に『殴り合い』してエンディング……。

 そんなストーリー、いっぱいあるだろう?

 全くもって何が憎くて見張りや門番を始末するんだか……。

 まぁ、かく言う俺も今、静かな戦艦で台所を見張っていた見張りがやられてコックがやってきたやつを逆に〆る様子や、不運にして不死身な皮肉が利いてる刑事をイメージした。明夫さんや那智さんが良い声してたゼ!



 今日、このリナンシア網羅的もうらてき蒐集所しゅうしゅうじょは襲撃を受けていた。

 この蒐集所は、地球にあるものを網羅的に集めて分析、研究し、次世代へ続く人々への糧とすべく、序に自分達の研究材料も集める……という、超巨大金庫兼最新鋭の研究所だ。

 そんな訳で、ここには歴史的遺物や貴重な書籍の初版本、模倣品が多くて本物の見付け辛い美術品の本物、珍しい動物の変異種の標本、全世界の紙幣貨幣の製造機、世界に一つしかない特注の機材や楽器、未だ用途が解っていないオーパーツや鉱物、多数の新型兵器に要人の自分さえ知らない情報、世界を変える発明まで、アレコレロクでも無いモノががごまんとある。

 そんな場所だから狙う奴は数多居る。

 希少品のオンパレード、金銀財宝の宝の山。どれだけその存在を隠そうと巨大過ぎて如何足掻いても見つかるし、狙われない道理は無い。

 そして、そんな場所だから警備は鉄壁にして盤石……あぁ、鉄壁にして盤石だ。

 悪党に潜入される場所は何処だって『鉄壁で盤石』と言われている。

 研究所は海抜1200mの山の頂上にある。地上7階建て、地下50階。一本道で入り口は一箇所。三方は崖。警備は金庫の中に金庫を入れてマトリョーシカにした様なシロモノ。

 まぁ、だからそんな蒐集所の門番や見張りはどうなるかと言えば…………。


 そんな場所に、今日、テログループが乗り込んで来た。

 伝説とも幻とも都市伝説とも呼ばれている過激派テロリスト、『ルージン・グドグ』。

 狙うのは天才技師と呼ばれたヴォリス=バルクマンの作ったフレッシュ3Dプリンター。

 手足の無い人や失った人の為に、新たな自分の四肢を遺伝子レベル、フルオーダーメイドで作り出す為の肉体合成プリンター。

 神経を接続する手術が未だ完成していない為に実用化に至らず、ここで一時的に蒐集している形だ。

 それをテロリストが何の為に使うか?

 皮膚を合成して整形する事や、DNAを偽造する事も出来る、果ては死体の偽装や…………。

 それを狙う為にルージン達が取った方法は………正面突破だった。

 トラック荷台にメンバーを載せ、入り口で荷物を確認させる。

 確認してきた奴等を全員始末して入り口から堂々と入っていく。

 単純ではあるが、この蒐集所は内部の警備は緩い。

 それを考えると、この方法が一番最適だ。

 だからこそ、トラックで入り口前までは無事辿り着いた。

 「止まって下さい。本日この時間、外部からのお届けは聞いておりません。

 許可証を、通行許可証を見せて下さい。」

 入口の手前の小屋から男が出て来る。

 暗い赤色の警備服に身を包んだ、ひ弱な印象の警備員が困った顔を貼り付けて速足でこちらに向かって来る。

 「あぁ、こちらに。

 急ぎの荷物だそうで、伺いました。」

 前もって用意してあった偽許可証を、運転席から上半身を乗り出して男に見せる。

 偽の許可証を手にした男は困った顔のまま頭をペコペコと下げる。

 「………確認しました。失礼致しました。どうもこちらの方で手違いがあったようです………。

 ですが、規則で予定外の荷物はチェックする事になっています。

 お手数ですが、荷物を開けて下さい。」

 そう言いながら荷台を指し示す。

 「えぇ、規則ですからね。」

 快く愛想笑いを振り撒いて荷台を開ける。

 「有り難う御座います。直ぐ、確認させて頂きますね。」

 そう言って荷台の方へと速足で向かっていく。

 さぁ、安月給の警備員共に永遠の休暇をプレゼントだ。

 バキゴキと何かを殴る音が後ろから聞こえた。

 「荷物の確認は出来ました。

 さぁ、どうぞ。」

 前に気を取られていてハッとなる。

 助手席に警備員がいつの間にか乗っていた。 

 「おま!どうして?」

 その質問にならない質問は、

 ゴキッ!

 脳を揺らす顎への一撃で答えられた。


 「畜生!やられた!

 これで今日だけで21回目だぞ!」

 蒐集所を遠くから双眼鏡で見ていた男が悪態をついた。

 この男も今日、仲間を引き連れてあの場所に忍び込む予定の組織の長だった。

 50人の精鋭を引き連れて、全方位から襲撃を掛ける前に様子見をしようとして……目撃した。

 「21回!

 それだけの数のろくでなしが挑んで、今日、敷地内に入れたのは0だ!

 警備員一人にやられるって、一体どういうことだ?」

 「……………………。」

 仲間は誰もそれに答えない。

 「おいお前ら!黙ってないでなんとか言ったら……」

 暗い赤色の警備服に身を包んだ、ひ弱な印象の警備員が困った顔を貼り付けて、自分の真後ろに座っていた。

 後ろにいた50人の精鋭、それを積み重ねた山の上に、座っていた。

 「いつも不思議に思うのですよ。

 重要拠点の警備員や見張りや門番が不意打ちで殺られるあのシーン。御座いますよね?

 重要な拠点なら、警備員がセガ○ルやジャッキ○やシュワルツェネッガ○やスタロー○クラスの警備員を置いておいても不自然じゃないと思うのですよ。」

 その言葉の後、21回目の襲撃を企てた組織がやられたのは言うまでもない。

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