Against 〈human〉:外伝 21回目の誕生日に俺は友と杯を交わす

とざきとおる

21歳の誕生日

「先導さん。今日誕生日っすよね。これ、俺からのお礼っス。この前言ってたコート見つけたんですよ」


「せんどーくん。いつもお疲れ様。これ、誕生日プレゼント。先導くんの好きなお酒、テイルじゃなくて、マジもんで作られたお高いの。どうかしら」


 俺が可愛がっている4歳下の後輩、先導指揮隊第2分隊隊長、ボサボサ頭のくせにそれなりにイケメンなのが腹立つ明地宇旦めうち うだん


 反逆軍本部で想像指令オペレータの1人である。御影知世みかげ ちよさん。


 2人に祝いの品を送られ、いつも俺に頼りっきり奈2人の意外な一面を見て愉快な気持ちになった。


 この歳になった朝にこれとは、意外と悪くない。


「この後も先輩にいっぱい会いに来る人がいると思いますよ、ファンも多いっすからね」


「そっか、いやーそれは申し訳ないことするな」


「え、なんでっすか」


「俺この後、休み取ってるんだよねー」


「えええええ? 俺はてっきり、誕生日だとかこつけて、他の連中とバチバチやりにいくと考えてたのに」


「いや、それは明日にしよって思ってさ。別に1日ずれくらいどうにかなるだろ?

じゃ、出かけてくるなー。プレゼントはお前が代理で受け取っとけ」


「まさか俺留守番?」


「おう」


「そんなぁ!」


「うるせー、後輩は先輩の言うこと素直にきいとけ」


 俺は自分に与えられた第2の家代わりともいえる隊の部屋を後にして、外へと向かった。





 昔はここに京都駅があったらしい。今、この場所は脅威に抗う為の戦士を養成し、人間が人間らしく生きられる唯一の都市、京都を守る軍の本拠地となっている。


 名前を、京都反逆軍。圧倒的な力を持つ外界の敵に立ち向かい、人々を守るヒーローの集う場所だ。


 そもそも遥か昔、想像を現実にする魔法のような万能粒子が発見されて以来、誰もがその魔法を使えるようになった時代に突入した。


 想像したものをなんでも現実のものにできるのだから、誰かを傷つける武器や、人食いの獣を想像したらそれが現実のものとなってしまう。


 そんな世界であれば、やはり全く脅威が生まれないなんてことはなく、いつしかこの日ノ本も、人間にとっての脅威が普通に生きる魔境となってしまった。


 だからこそ、人間たちの逃げ場であり、唯一神の使徒の支配を受けず、人間らしい生活ができるこの都市を守るため、人間を狙うあらゆる脅威と戦う軍を必要とした。


 それが俺の所属する反逆軍という場所だ。


「先導様ー!」

「いた、せんどうくーん」


 やべ、見つかった。人気者ってつらいなぁ。


 まあ、当然の反応っしょ。なぜなら俺はその反逆軍の中で最強と呼ばれる男。双龍の刀を扱う、守護者階位第1位、先導御剣なのだからね。


 別に逃げたいわけじゃない。プレゼントはいつでもウェルカムだ。もてはやされるのはまんざらじゃない。まあ、一番は模擬戦で戦ってくれる方が嬉しいが、慎ましい俺は、そこまでは強要しないさ。 


 ただ、今日はちょっと用もある。心を鬼にして俺はこの場所を駆け出した。





 京都には子供が多い。いや、大人と言うべきか?


 遥か昔は20歳になってようやく大人って言われていたらしいけど、それって遅すぎね、と思う。


 京都でも成人は18歳以上扱いだし、他の土地では13歳でもう大人扱いらしい。


 成人扱いが早い理由は簡単だ。


 死にやすい。この世界は。


 京都はマシなほうで、30歳を越える人間は全体の2割以上いる。これも俺の仲間の反逆軍の皆のおかげだ。


 だが、人々を守るため、前線で戦う同胞は、大体が20歳に至る前に死ぬ。


 ひどいもんだ。


 いつも誕生日になると、そんなこの世界の残酷さを思い出すんだ。


 らしくないけど、この1日だけは、傲慢な反逆軍トップの立場も、おしゃべりが大好きなお調子者も忘れ、シリアスになる。


『警報。機械兵出現! 警戒中の防衛隊員は直に現場へ急行し、交戦を開始せよ。周辺の皆様はすぐに避難を開始してください』


 こんな警報も日常で、焦る連中が全くいないのが魔境である証拠だ。


 なあ、こんな世界正しいと思うか?


 ギシギシと耳障りな音がする。


 はぐれた敵がここで暴れようとしている。


「邪魔だ。酒の味に関わる」


 想像する。


 この手に剣を。鏡のように綺麗に俺を映す刃を持ち、銀の焔を宿す宝刀を。


 それが現実となった。


 ピピピ。


「ああ、うざい。今日は遊ぶ気分じゃない。失せろ」


 レーザーを撃たれ、刃が両断して俺には届かない。


 なにかを察知したのか逃げようとする。


 一振りで十分。


 刀が空を切ると同時に、遥か先で銀の焔の剣戟が確かに敵を裂いた。





 8年前の話だ。


 大規模進行をうけた京都で、軍に入りたての俺は、一緒に入った親友と一緒に、住民の避難と警護にあたった。


 当時はまだ新人だったからな。弱かったし、なにもできなかった。


 敵に襲われた。


 住民を守るためには、そんな俺と親友と一緒に、戦うしかなかった。


 勝てなくても時間を稼ぐため。


 親友は俺をかばって死んだ。下手をしたもんだ。まさか転ぶなんてな。


 先輩は仕方ないことだと言ってくれたが、おれはどうしても引きずってしまった。


 それが、俺の誕生日の日だ。


「卓、おれ、21歳になったで。やったな、壁を越えたんだ。生きれたぞここまで」


 友の墓の前で祝杯をあげた


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Against 〈human〉:外伝 21回目の誕生日に俺は友と杯を交わす とざきとおる @femania

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ