214話 幕間~兄の独白~

それから数日が経ち……無事にロイス兄さんの結婚式が全て終わる。


パレードからの数日間の祭りでは、俺達も羽を伸ばし遊んだ。


その後は辺境での出来事などを、オーレンさんや兄さんに話したり。


そして、いよいよ俺達が辺境バーバラに帰る日がやってきた。


「マルス、見送りはいいのか?」


「うん、兄さん。そんなことになったら、また騒ぎになっちゃうから」


「しかし、お前は今や英雄扱いだ。民達も、見送りたいだろう」


「そういうのは柄じゃないしさ。というか、苦手だよ」


「全く、お前は相変わらずだな」


そこで、オーレンさんが前に出てくる。

オーレンさんも、自分の領地に帰るのだ。


「マルス様、少し早いですがシルクをよろしくお願いいたします」


「お、お父様……」


「少し意地っ張りで跳ねっ返りですが、きちんとした教育はしたつもりです。きっと、公爵夫人となってもやっていけるでしょう」


「いえいえ、俺には勿体ない女性ですよ。むしろ、頼りきりなっちゃうかも」


「もう、マルス様ったら」


「ふむ、上手くやれるならそれでいいのです。では、私は一足先に帰るとしましょう」


そうして振り返ることなく、王城から去っていった。

相変わらず、何というかきっちりした人だなぁ。

……アレをお義父さんと呼ぶ日が来るのが怖いや。

俺が震えていると、いつの間にかリンと兄さんが会話していた。


「リンも元気でな。マルスのこと、よろしく頼む」


「はっ、我が命にかけて」


「そんなに気負うことはない……お主は、この先義妹になるかもしれないのだ」


「ふぇ? ……は、はひ!」


「くくく、まだ早そうだな。だが、誰がなんと言おうとお主のことは国王であり、マルスの兄である俺が認めている。胸を張って、マルスの隣に立つといい」


……そっか、リンと正式に結婚したら兄さんとも家族になるのか。

なんだか、それはそれで不思議な感じ。

最後に兄さんが、ルリとシロとラビの元にくる。


「三人共、マルスを頼んだ。手がかかるだろうが、手伝ってやってほしい」


「は、はい! 僕師匠のために頑張ります!」


「わ、わたしも! 御主人様の役に立ちます!」


「キュイー!」


「うむ、皆いい返事だ。さて……俺は先に戻るとしよう」


そう言い、あっさりと去っていく。

あれ? 感動の別れとかないのかな?

それはそれで、少し寂しい気もするなぁ。

すると、宰相であるルーカスさんが俺の側にやってくる。


「あれ? どうしたんです?」


「マルス様、少しよろしいでしょうか?」


「うん、もちろん。みんな忘れ物とかチェックして、先に馬車に乗ってて」


その神妙な表情から、みんなが察して馬車に乗る。

そして俺はルーカスさんについていき、中庭のテラスへとやってくる。

そこは俺が小さい頃に、よく遊んでいた中庭の空間だった。


「ルーカスさん?」


「しっ、こちらへどうぞ」


そのままテラスの奥に行くと、そこには兄さんが一人で立っていた。

その前には何やら小さなお墓と花が添えてある。

訳がわからなかったけど、ルーカスさんと一緒に木の陰に隠れる。


「父上、母上、俺は無事に結婚をしました。そしてライルやライラも、自分の道を見つけたようです。しかも、あのマルスが……あの小さかったマルスが……」


「兄さん……」


どうやら、父上と母上に報告をしているらしい。

ただ、なんで王家の墓じゃないんだろう。

兄さんの背中は震え、なにかを堪えているようだ。


「そのマルスも、今では立派な男になりました。辺境を改革し、他種族との軋轢を減らし、他国との交流まで成し遂げました。父上と母上に変わり、私が褒めてあげたいですね」


「……照れちゃうや」


「更にはシルクという婚約者に、リンという頼もしい女性を得たのです。あのマルスには勿体ないくらいの女性で、父上と母上もきっと気に入ったでしょう」


「人に言われると複雑なんだけど……」


そうか、俺ってば両親に奥さんになる人を紹介できないのか。

……でも、ロイス兄さんにライル兄さん、ライラ姉さんがいる。

それって、物凄く幸せなことだよね。


「しかし、まだまだ子供なのは事実。きっと、これからも手を焼くでしょう」


「……否定はできないや」


「それでも……それでも……もう、俺の手を離れたと言っていいでしょうか? 父上と母上との約束を果たしたと……マルスを優しい男に育てると」


「……ロイス兄さん」


そのまま、兄さんは立ち尽くしてしまう。

すると、ルーカスさんが俺の手を引いて少し移動する。


「マルス様、ここは先代陛下と王妃様のもう一つの墓なのです。お二人はここでお茶をするのが好きだったのです。そして幼き頃、ここでマルス様達を眺めておりました」


「そうだったんだ……覚えてないや」


「無理もないかと、ライラ様はともかくライル様すら覚えているかどうか。そして、ロイス様は亡くなる前のご両親に頼まれました『マルスを頼むと』。何かあるたびに、ここに報告に来ておりました。故に貴方に厳しく当たることも……」


俺はその先の言葉を手で遮る。

だって、それはもう痛いほどわかっているから。


「うん、大丈夫。今回ので、よくわかったから。その、俺はロイス兄さん好きだし」


「そうですか……良かった。彼の方は憎まれ役を買って出るので」


「俺がいうのもなんだけど、ルーカスさんみたいな人がいてくれて良かったです。引き続き、兄さんのことをお願いします」


「ほほ、まさかマルス様にそんなことを言われる日が来るとは……追放を言い渡した時は思いもよりませんでした。その節は、大変申し訳ございませんでした」


そっか、あれからもうすぐ一年近くになるのか。

なんだか、あっという間にだったなぁ。

ほんと、色々あったよね。


「いやいや、あれは俺が悪かったので」


「それはそうですな」


「えー? そう言われると複雑なんですけど」


「ほほっ……まさか、マルス様とこんな話が出来るとは……私も歳をとるわけですな。では、私はこれで。あとは、マルス様にお任せします」


そう言い、ルーカスさんが去っていく。

俺は少し考え、兄さんがいるお墓に戻り……。


「ロイスにいさーん!」


「マルス!? どうしてここに……」


「ロイス兄さん今までありがとうねー! この間も言ったけど、俺はもう大丈夫だから! それじゃ——またねー!」


「……ああ! 元気でな!」


そして、兄さんがぐっと親指を立てる。


俺も同じように返し、その場を離れるのだった。







~あとがき~


皆様ご無沙汰しております、作者のおとらです。


更新が遅れ申し訳ありません🙇‍♂️


仕事合間を縫って最後締めについて、担当さんと相談しております。


そして、ただ今カクヨムコンテストに参加しております。


「主人公に断罪される悪役に転生したけど、関わらずにのんびり過ごしたい」


https://kakuyomu.jp/works/16818093089576852770/episodes/16818093089652493827


こちら初めて書く私なりの悪役転生で、よろしければフォローなどをして下さると嬉しいです🙇‍♂️


それでは、引き続きよろしくお願いいたします。

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国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~ おとら @MINOKUN

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