213話ライル視点
……アイツらは元気でやってるかね?
遠く離れた地から空を見上げ、そんなことを考える。
すると、休憩をしにレオとベアがやってきた。
「おう、お疲れさん」
「お疲れっす!」
「うむ、そちらこそ」
獣人の二人だが、すっかり俺にはフランクに接するようになった。
俺自身堅苦しいのは好きではないので、とやかく言うつもりはない。
マルスの兄ということで、彼らも俺を信頼しているように、俺もマルスが気に入った奴らなら信頼できる。
何より、二人共気の良い奴らだ。
「作業も、だいぶ終わったな」
「そうっすね。後、もう一息ってとこかと」
「うむ、仕事環境も悪くないのが要因の一つだろう」
「そりゃな、弟であるマルスにお膳立てされたんだ。それくらいは、ちゃんとやらないとな」
国境の問題の一つであった、セレナーデ国第二王女マリア殿との関係。
彼女は獣人差別をしていたし、姉であるセシリアさんとも仲が良くなかった。
それをマルスが解決してくれた。
兄として、ここまでお膳立てされて失敗などできない。
「へへっ、それだけですかい?」
「くく、そうだな」
「んだよ、二人して……」
すると、こちらにセシリアさんがやってくる。
珍しくマリアさんやお供も連れずに一人だ。
いや、正確にはセレナーデ王国側の護衛達が遠巻きから見ていた。
「ライル殿、お疲れ様」
「セシリアさんこそ……ところで、良いんですかい?」
「いいさ、たまには放っておいてくれと」
「なるほど……では、隣にどうぞ」
「か、感謝する」
俺は手早く椅子を引き、セシリアさんを迎い入れる。
いつの間か、レオとベアは姿を消していた。
どうやら、気を使われたらしい。
やれやれ、どいつもこいつもお膳立てしやがって。
「それで、どうしたんですか?」
「……用がなくては、きてはいけないのだろうか?」
「へっ? い、いや、そんなことはないですが……」
セシリアさんは、心なしか膨れている気がする。
もしや拗ねてる? ……なんだこれ!? めちゃくちゃ可愛いぞおい!
「むぅ……マルス殿は元気だろうか?」
「どうですかね。あいつのことだから、何かまたやらかしている気はしますけど」
「ふふ、それは言えてるな。ライル殿は、その……これが終わったらどうするのだ?」
「これが終わったらですか……」
それは中々に難しい質問だ。
兄貴が結婚したとはいえ、まだまだ俺の立場は微妙だ。
戦いを得意とする貴族達は、俺を気に入ってる。
それもあって、少しそこから離れることにしたわけだしな。
「何かお悩みだろうか?」
「いや、居場所がないなと。王都に帰れば、また兄貴達に気を使わせますし。マルスの所は楽しいし楽だし良いですが………弟におんぶに抱っこというのは良くないですからね」
「ふむ、マルス殿は気にしないと思うが……」
「まあ、そうでしょうね。ただ、こんなんでも兄貴ですから」
もう、マルスは俺などいなくても大丈夫だ。
リンは強くなったし、シルクは頼りになる女性になった。
姉貴もバランやゼノスがいれば平気だろう。
どちらにしても、姉貴を任せられるいい男達だ。
「……はは、本当に俺の役目はないかもな」
「そ、そんなことはない!」
「セシリアさん?」
振り向くと、何やらセシリアさんがチラチラとこちらを伺ってくる。
どうでもいいが、めちゃくちゃ可愛いのだが。
「そ、そのだな……ライル殿さえ良ければ、私の国に来ないか?」
「……へっ?」
「い、いや! 私もこれが終わったら、一度国に帰ろうと思っていてな! 私の国なら、
ライル殿も気が楽とか何とか……うぅー」
流石に、この言葉の意味がわからない俺ではない。
それはとても嬉しい事と同時に情けなくもある。
結局、人頼りではないか……それも、好きな人に。
「お気遣いありがとうございます。ですが……」
「だ、ダメなのか?」
「いえ、そういうわけじゃありません。ただ、まだ自分は中途半端です。この一代行事である街道整備が終わったら、もう一度話をしてもいいですかね?」
「あ、ああ! もちろんだ!」
兄貴は俺の人生を歩んでいけと言ってくれた。
だが、俺とてこの国の王族だ。
せめて、この街道整備を成功させ、義務を果たしさなくては。
そして、それが終わったなら……きちんと、兄貴に挨拶に行こう。
俺は、俺のしたい事を見つけたと。
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