212話 マルス、逃走する
パレードを終え、夕方頃にどうにか王城に帰ってきた。
風呂に入り夕食を済ませたら、俺は部屋に戻り……思い切りソファーにダイブする!
「だァァァァ! 疲れたよぉ〜!」
「ふふ、お疲れ様でしたね」
「リンもお疲れー。リンもゆっくりしてね」
「はい、そうします」
そう言い、儚げに微笑んだ。
その顔は綺麗で、思わず目をそらしてしまう。
そういや「、リンとも婚約者になったんだっけ。
……どうしよう、同じ部屋はまずい気がしてきた。
そう思ったら、めちゃくちゃドキドキしてきてしまう。
何故なら、マルス君は思春期なのです!
「え、えっと……あ、歩いてこようかなー」
「えっ? お疲れだと言っていたではないですか? まあ、なら私もついていきますね」
「い、いや、リンはここにいて! それじゃ!」
「あっ! マルス様!?」
俺はリンの制止を振り切り、部屋から飛び出す。
そのまま走り、角を曲がっていく。
すると、それに気づいた家臣達が騒ぎ出した。
「なんだ!?」
「マルス様か!」
「一体何が!?」
そんな中、走っていると……リンの声が聞こえてくる。
「マルス様ぁぁ〜!」
「追ってこないでぇぇ〜! 兵士達よ! リンを止めるのだ!」
「「「……なんだ、いつものことか」」」
と、家臣達にはスルーされた。
皆、何事もなかったかように道を開けていく。
「ちょ!?」
「マルス様! 逃がしませんよ!」
「だァァァァ!」
人波を走り抜け、中庭に出たところで……リンに後ろからタックルされる!
俺達はそのまま、中庭の柔らかい草むらに大の字に転がる。
「は、速いなぁ」
「ふふ、私から逃げようなんて百年早いですよ」
「いやはや、ほんとに。誰も味方してくれないし」
「だって、良くあったことですから。いつも貴方がサボるたびに、私が追いかけ回していたんだですよ?」
「……そういや、そうだったね」
あの時の俺は記憶も戻ってなくて、ただ自堕落に生活をしていた。
兄さんや姉さん達に甘やかされ、シルクやリンがいて……それがどんなに恵まれているかもわからずに、自分には何もないと思っていた。
「懐かしいですね……まるで、昨日のことのように思い出せます」
「まあ、バーバラで色々とあったからね。それこそ、俺がルリに乗ってリンを追っかけたり」
「そんなこともありましたね。あの頃の私は、この気持ちをどうしていいかわからずに……マルス様、どうして逃げたんです?」
「あぁー……いや、特に理由はないよ」
「嘘ですね。あの……別に、私が嫌なら無理しなくてもいいですからね。あ、あの時は、空気というか、流されただけだと思いますし……私は、貴方の側に居られればそれでいいのです」
自分に嫌気がさす……女の子に何を言わせてるんだ、俺は。
俺は横に寝そべるリンの手を握る。
「マ、マルス様?」
「あの時も言ったけど、俺はちゃんとリンが好きだから」
「ひゃい!?」
すると、耳まで真っ赤になっていく。
それを見てると、俺まで身体が熱くなってきた。
「ちょっと、そこで照れられると……」
「す、す、すみません!」
「と、ともかく、そういうわけだから。逃げたのは……こんなに綺麗な女の子と二人きりで部屋にいるのは大変だなって」
「……どういう意味です?」
「へっ? い、いや、それを聞かれるのは困るというか……あのね、リン——マルス君も成人した男の子なので、色々と大変なのですよ」
多分、リンには伝わらないと思ったのでストレートに言ってみた。
すると、理解したのか……今度は顔まで真っ赤になっていく。
目には見えないけど、汽車みたいに湯気が出てそう。
「そ、そ、そういうことですか! では、私はシルク様と一緒に寝てきます!」
「ちょっ!? ……行っちゃった」
うーん、これからリンと二人きりになると意識しちゃいそうだなぁ。
まあ、そのうち慣れるかね。
そんなことを考えていると、中庭にルリがパタパタと飛んでくる。
「キュイー?」
「ルリ? どうしたの?」
「キュイキュイ!」
「わわっ!? くすぐったいって!」
顔をペロペロと舐めてきて、俺を押し倒す。
もう大きいので、中々に重たい。
「キュイー!」
「シルクについていった君がここにいるってことは……追い出された?」
「キュイ!」
どうやら、そうらしい。
もしかしたら、リンとシルクの大事な話があるのかも。
……原因は俺ですね!
「んじゃ、今日は俺と寝るかい?」
「キュイ!」
「それじゃ、部屋に行こっか」
そうして俺はルリを伴い、自分の部屋へと戻る。
朝から動いて疲れていたのでベッドに入ると……すぐに眠気が来た。
それに身を任せ、俺はルリを抱き枕にしながら眠りにつくのだった。
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