211話 作戦成功



 俺達がルリに乗って元の場所に降り立って行くと……。


 そこでは人々が拍手をして出迎えてくれた。


「マルス様! みましたぞ!」


「兄上様のため催しでしたのですね!」


「魔法が使えるって本当だったんだ!」


 ……この様子なら気づかれてないかな。

 俺は手を振りながら、無事にパレードの上に着地する。

 すると、いの一番でシルクが駆け寄ってきた。


「マルス様! リン! 良かった……」


「シルク様、ご心配をおかけしました」


「やあ、シルク。どうにか、無事に終わったよ」


 俺達がそう言うと、シルクがほっと息を吐く。


「それなら良かったですの。大きな音が連続して聞こえたから心配しましたわ」


「まあ、割と特大のを放ったから。この様子だと、誤魔化しはできたっぽい?」


「はい、民達は何も知らないままですわ。マルス様の国王陛下へのお祝いの催しだと思っておりますの」


「よし、それから成功と言って良いかな」


 すると、今度はロイス兄さんが駆け寄ってくる。

 そして、俺を強く俺を抱きしめた。


「おおっ! マルスよ! この兄のために虹を発生させるとは! 俺は良き弟を持った!」


「だァァァァ!? わかったから離してぇぇ!」


「ははっ! たまには良いではないか!」


 俺がそれから逃れようと動くと、周りに聞かれないように兄さんが耳元で囁く。


「マルス、本当によくやってくれた。おかげで、民やローラ達に気づかれることなく済んだ。国王として、ただの兄としてお礼を言わせてくれ」


「……これで、少しは恩は返せたかな? 俺ってば、ロイス兄さんに迷惑かけてばっかりだったから」


 俺は身体から力を抜き、大人しく抱きしめられることにした。

 照れ臭くはあるけど、兄さんにこんなことされたことないし。

 何より、褒められたのが嬉しいから。


「恩になど感じることなどない。俺は……いや、俺とライラとライルはお前に救われた。父と母を早くに亡くし、俺達は途方に暮れていた。それに、兄弟間の間でもギクシャクしていた」


「えっ? そうなの?」


「あぁ、元々俺達は性格も価値観も違う。だが、そんな時……まだ幼いお前を見て誓ったのだ。俺達がしっかりとし、マルスを見守っていかなければと。それぞれに役割を担って、この国を守っていこうと」


「そうなんだ……」


「お前の奔放な振る舞いには苦労させられたが、それ以上に明るさに救われたのだ。だから……礼を言うのは俺の方だ。よくぞ、俺達の末っ子として生まれてきてくれた」


 その言葉が俺の心に染み渡る。

 前世では両親に捨てられ、今世でも両親はいない。

 だから、ずっと自分の価値がわからなかった。

 多分だけど……その思いが、俺をダラダラさせていたのかも。

 この人達は、俺がどんなでも見捨てないのかなって。


「ううん、礼を言うのは俺だよ。ロイス兄さん、ありがとう。俺はもう大丈夫……だから、兄さんも自分のことだけを考えてね。前も言ったけど、ここにはいないライラ姉さんとライル兄さんも同じこと言うから」


「ふっ、生意気言いおって……だが、今は素直に受け取っておこう。そして、後のことは兄」に任せておけ。お前達は、好きに生きて良い。それが俺の……兄としての願いだ」


「なんだ、良いこと言ってるけど……それって結局変わらないじゃん。俺たちのことばっかりじゃんか」


「そう言うな。俺はお前達の長男で、この国の王なのだから。そして、不出来な兄にも仕事をさせてくれ」


「兄さんが不出来とかなんの冗談?」


 すると、兄さんが離れて俺の頭をわしわしする。


「なにすんのさ!?」


「ははっ! ……皆の者! 待たせてすまない! パレードを再開するぞ!」


「「「ウォォォォォォ!」」」


「「「マルス様!」」」


「「「国王陛下万歳!」」」


 兄さんの声で、民達が湧き上がる。


 そして、パレードが再び動き出す。


 ふと横を見ると、俺に微笑みかける兄さんがいた。


 俺はどうして良いかわからず、手持ち無沙汰に頬をかくのだった。








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