粉塵爆発って知ってるか? ――本当に簡易爆弾となるかの考察

curuss

粉塵爆発って知ってるか? ――本当に簡易爆弾となるかの考察

〇そうてい


 倉庫へ追い込まれる主人公たち一行。

 そこで閃く主人公!

「ここ小麦粉倉庫だ! 皆! 小麦粉を全員でバラまくんだ!」

「そんなことしている場合じゃないだろ!」

「いや、こんな時だからさ!」

 そして開かれる倉庫の扉!

「く、く、く……袋のネズミとはこのこと! さあ年貢の納め時だぞ!」

「……あんた、粉塵爆発って知ってるか?」

「な、なんだと!?」

 気が付けば倉庫は粉塵が充満! そして主人公が火を投げ入れると大爆発が!


 わりとテンプレ展開ですが、作者は否定的見解の立場でした。

 そんな簡単に爆発させられるのなら、もっと犯罪とかで使われるでしょうし。

 でも、ホントに粉塵爆発は使えないのか?

 実は爆発物として手頃だったりするのでは?

 よし、少し調べてみよう!

 ……が、今回の趣旨です。



〇サルベージ


 粉塵爆発は専門家の先生方が真面目に研究していらして、わりと簡単に諸条件を入手できました。


小麦粉 最小下限 60g/㎥ 最大爆発圧力 8.3 発火温度 430℃


 最小下限とは、これ以下な濃度では爆発しないという基準ですが、想像の数倍は低い?

 爆発圧力は単位がbarなので、爆発した空間が8.3倍に膨らむという認識で良さそうです。

 ちなみに100種類近くの一覧表を入手できたのですが、どの素材でも最大爆発圧力は7~10程度に収まっていたり。

 これは理想的条件時でしょうから、現実ではかなり威力は下がる模様。

 そして大半の粉体が最小下限60g/㎥。

 燃えやすい粉体?がちらほらと30g/㎥だったりも。


 どうやら結果を左右し易いのが平均粒径――粒の小ささで、細かければ細かいほど爆発し易くなるようです。

 例えばアルミニウム粉は平均粒径が30μm以下だと爆発し易く、40μmぐらいで普通。170μm以上だと粉塵爆発を起こせなくなったりします。


※ 1μm=0.001ミリm


 また保有水分量も、結果を大きく左右するようです。

 例えば平均粒径が39μmで水分41%のピート(泥炭)は、粉塵爆発を起こせなくなります。

 平均粒径が58μmと1.5倍近く粒子が大きくても、水分15%なら普通に粉塵爆発を起こすのにです。


 このピートの例だと1㎥の空間に付き50gほどの水分があると不活性化なので、湿気のある場所では期待できないと分かります。

(ようする「どこからか水が染み出ていて床が濡れてる」なんてダンジョンだと、逆立ちしても粉塵爆発は起こせない。今日から全てのダンジョンは湿気らせましょう!)


 また手元の資料では、平均粒径1000μm越えで粉塵爆発を起こせる素材は極めて稀。

 三桁ですら珍しいほどです。

 なので狙って粉体にしたものでなければ、粉塵爆発を起こすのは困難といえそうです。

(が、ココアなどは平均粒径500μm――0.5ミリでも爆発させられる。ものに拠りけりか)



〇想定してみよう!


1)幅2m、高さ2mの通路を、2m分ほど爆発させる


 2*2*2で8㎥なので、最低でも480gの小麦粉が要ります。


 ちなみにコンビニでも置いてありそうなのが500g。スーパーなどで普通に見かけるのが1kgだそうです。

 しかし、ただ480g分を撒けばいいというものではなく、全体的に60g/㎥以上な濃度にせねばなりません。

 ここでは倍の1kgを必要としたとしましょう。

(ようするに実験室環境でもなければ、きっちり480gで爆発は難しいということ)


 1kg分の小麦粉を、通路の天井辺りへ叩きつけるようにバラ撒いて、通路を必要な濃度にする。

 これなら達成できそうです。


 そして8㎥が8.3倍に膨らみます。

 これは色々な考え方がありますが、ようするに同容積の空気が、爆風として噴き出てくるのと同じと考えてみます。

 さらに空気1㎥の重さは1kg。

 よって8*8.3=66.4kgで押してくる力と同等?

 ですが、このケースでは通路。手前と奥とで二分されます。よって33.2kg。


 ……大きな音と火が上がり、弱い爆風を感じる程度?


 同規模の密閉空間で爆発させても、よほどに脆い建材でもない限り、破裂すらしないかもしれません。



2)幅4m、高さ4m、奥行き6mの車庫


 一般的な車なら、ほとんど入る大きさです。

 4*4*6で96㎥となります。

 96×60だと小麦粉は最低で5760g。そして現実的な数値だと10kgぐらい必要でしょうか。

 こうなると業務用スーパーなどでしか取り扱わないような、やや大きめな袋となります。

 まだ単純な方法でも、空間を粉塵で満たすことは可能でしょう。


 これだと96㎥が8.3倍ですから、796.8kgで押してくる力?


 凄いことは凄いですが……強い力で突き飛ばされる程度で、まだ弱め?

 また一般的な建物だと持ち堪えられそうな威力でしょうか?

 


3)平均的な教室


 学校の教室は7m×9mという指針があり、どこも似たような広さだったりします。

 さすがに高さはまちまちですが、それでも3mぐらいはあったはずです。


 7*9*3=189㎥


 189*60=11340g


 現実的には20~25kgでしょうか?

 そして25kgというと茶色い包装で倉庫に積まれているサイズなどに相当します。


 そして残念ながら?個人では実現不可能な量と思われます。

 空気中へ散布した小麦粉が床へ落下してしまう前に全てを撒く必要があり、独りでは無理でしょう。

(複数の10kg入りを片っ端から開けて撒く……そういう方向性なら実現可能やも)


 暫定爆発力は1568.7kg! ついにトン越えです!

 もうトン単位になると交通事故とかに匹敵し始めるので、建物も無事では済みません。

(が、堅牢な建物なら耐える。つまり、被害は教室内だけ)



4)大きな倉庫


 埠頭なんかにある倉庫――赤レンガ倉庫で幅20m、長さ70m、高さ10m以上だとか。

 さすがに長すぎるので半分としても――


 20*35*10で7000㎥!


 さらに7000*60だと420kg!


 最低限度でも25kg入りを16.8袋! 現実的には30袋近く!

 しかも、散布した粉が地面へ落ちるまでの間に!


 十人近くで一糸乱れぬ連携とか、高い位置へ積まれた小麦粉の袋をマシンガンか何かで乱射とか……とにかく普通の方法では難しそうです。

 少なくともドヤ顔主人公+仲間数人が、へっぴり腰でこなせる作業じゃありません。


 半面、暫定爆発力は58100kg! 58トン!

 もう倉庫そのものが弾け飛び、その破片にも殺傷能力が認められそうという大参事になります。



〇でも、爆発の中でどれだけのダメージを?


 barというのは気圧の単位で、暫定爆発力は空間全体を押してくる力と予想しています。

(いうまでもなく素人計算。爆発の実情を勉強しきれなかった為)


 でも、全身を58トンで押されたら、即死!?

 1トンでもヤバい!?


 平均的な教室辺りから、爆心時に中だと無事では済まない。そんな予測ができます。


 ……でもラノベ主人公達って、自分で火を点けてるよね?

 あれって……いわゆる……自爆行為なのでは?


 さらに空気の問題もあります。

 きちんと粉塵爆発を起こした場合、爆心地の空気は燃焼で使い果たされるはずです。

 密閉空間が破裂して破れれば、即座に空気が供給されて無視できますが……そうではなかった場合、酸欠が懸念されます。


 また爆発で起きる熱は、そう高くはないと予測できますが……それでも熱風を吸い込んでしまうと肺が焼かれ、かなり厄介なことになります。


 現象として爆発となるかは条件次第ですが、火炎としてなら起こし易いので、軽視し過ぎも危険と思われます。



〇そして閉鎖空間でなければ、とたんに威力が下がる


 まず充満している必要があります。

 なぜなら充満していなかった場合、粉塵ガスのなかったスペースへ威力が逃げてしまうから。

 その後、やっと閉鎖空間を構成している物質へ影響でしょう。


 なので主人公がいるあたりは充満してなくて、火を点けても平気説は難しそう。

 誰よりも、まず主人公が大ダメージと予想されます。もう直撃に近い?

 かといって濃密なガスの中だったら爆心地ですし?


 そして通路での予想から分かるように、力が逃げる方向が多ければ多いほど、一方向辺りの力は減ります。

 また爆発物としては、それほど粉塵は凄くないので――


 だたひたすら、爆発という危険な物理現象が凄いだけ


 といえるかもしれません。

 なにより爆発物として有意なのが教室サイズぐらいからですが、そこまで手間暇かけるぐらいなら、別の爆発物を用意する方が早いという。

 教室サイズの爆発を起こしたかったら、どこからかLPガスでも盗んできて、栓を開けるだけで完成します。

(明確な数値はサルベージできませんでしたが、粉塵爆発とはようするにガス爆発の親戚……らしいです)


 そしてガス爆発なんて貧乏なテロリストすら跨いで通るほどで、爆弾界では弱すぎると思われます。


 どちにせよ、何らかの起爆システムも必要ですし(自爆を厭うのであれば)



〇ラノベ条件


1 密閉空間


2 幅4m、高さ4m、奥行き6m程度まで


3 着火要員も死ぬor重症


 これが容認できる限界点でしょうか?

 そして倉庫などで小麦粉か何かをキャッキャッウフフしてどっかーんは夢物語と言わざるを得ません。



〇しかし、爆弾ではなく事故としては怖い


 よく建築現場などで解体時に水を掛けてますが、万が一の備えとしては適切でしょう(埃対策も兼ねてる?)

 とにかく60g/㎥という条件は緩すぎます。

 いくら密閉空間でなければ大したこと無いとはいえ――


 逆にいうと密閉空間だと、容易く大惨事に!


 炭坑ではよく起きたと聞きますが、そりゃそうでしょう。対策しなけりゃ、起きない方が不思議レベルです。

(また爆発そのものより、連鎖して起きる崩落なども厄介と思われます)



◎まとめ


・一般条件は60g/㎥だから、粉塵爆発を起こすのは簡単だよ


・しかし、密閉空間でもなけりゃ、火と音が発生して終了だよ


・密閉空間で起こすと爆発で、違う理に支配されるよ


・その場合、着火方法は考える必要があるよ


・爆弾レベルを即興で起こすのは、不可能に近いよ


・条件さえ満たせば際限なく大きくできるから、大事故は起こり得るよ



 採用した数多の作品も、不可能ではなかった!

 非常に難しいですが、とにかく嘘や出鱈目ではありません!


 ……でも個人的には、リアリティ下がるし『扱わないほうが良い』でFAかな。

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