指は知る必要がある
あなたとはふとした縁で出会いましたね。
私がスピッツの歌詞の話をしたのがきっかけでしたか。
あなたは風のように私の心の中に入ってきてくれました。
それからあなたは、私の物語に遊びに来てくれた。
こころを使って、一生懸命に私の世界に飛びこんでくれた。
忘れません。
あなたが私の小説の全てのエピソードに感想をくださったことを。
そして私の公募先について、わがことのように考えてくれたことを。
毎晩、おもしろおかしい話を交わしましたね。
私の一番の秘密を告げたときも、あなたは笑って許してくれた。
だいじょうぶだよ、と言ってくれた。
どれだけ救われたことか。
私の二年間の悪夢が全て振り払われたような。
これはお別れのメッセージなどではありません。
そんなメッセージであっていいはずがない。
これは、あなたがわたしにしてくれたことへのお礼です。
そして、いつかあなたとしてみたいことの展望です。
いつか作家仲間で合宿をしましょう。
きっと楽しい。
もしあなたがいつもの恥ずかしがり屋になってしまったら。
私はあなたの隣で、あなたの好きな歌をうたいましょう。
それは宇宙の歌であってもいい。
それは春風の歌であってもいい。
そしてともに、作家仲間の輪に入っていきましょう。
これはあなたとの約束です。
一方的な、それでも、どうしても守ってほしい約束なのです。
あなたはかつて言いました。
私も同じように答えました。
「もう二度と戻らない日々を。
あのうつくしかった日々を。
物語にして、子どもたちに伝えてあげたいんだ」と。
それからこうも言いましたね。
「そうすることで、今も自分のそばに青春があるような気がする」
少なくとも私は、この約束を守るつもりですよ。
今だって、この胸の中で燃え上がる恒星のごとき無量大数。
いつか散るとしても。
いつか消えるとしても。
そのときはまだ、先でいい。
もっともっと先なのですよ。
それまでに私たちは、いくつもの約束を果たさなければなりません。
必ず、戻ってきてください。
あなたが見てきた全ての世界を。
うつくしい世界を。
よごれた世界を。みにくく弱く、それでも捨てきれない人間のこころを。
長く長く、この世界で紡ぎ続けましょう。
約束ですよ。
あなたの指は知っている。
私と約束をしたことを知っているでしょう。
もし涙が出そうになったら、その指を見てください。
私と繋いだ、その指を。
あなたの指はまだ知らない。
この世界の要点を、まだまだ知らない。
だからあなたの指は、たくさんのことを知る必要がある。
指は知っている 木野かなめ @kinokaname
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます