指は知っている

木野かなめ

指は知っている

あなたの指は知っている

人差し指と親指で ざらついた一枚の紙をつまんでいることを


白い紙に光が点っても

白に紛れて気づくことができないかもしれない


黒い紙に光が点ったとき

その光を目に映して

少し紙を離してやれば気づくだろう

光と光は点繋ぎになって星座を形づくっていることを


星はあなたの頭上で瞬き

哀しい記憶をあらわにする

胸の中に刻まれた痛ましい傷も


指先を濡らすのはかつての紅い血じゃない

傷を塞ぎ まだ足りないとあくびを繰り返し

焔へと形を変えるこころの咆哮


秒単位で進む時間も

数十年を駆けてゆく時も

全部が全部 待っていた

あなたに認められる格子点を待っていた


そこにあるが そこにはない

そこにはなくて そこにある


あなたはたまに言うんだ

「けして幸せな人生を歩んできたわけじゃない」と

あなたはたまに苦しむんだ

「強い大人になりたかったのに」って


諦めたり

自分をいじめたり

そんな人間になりたくなかったのにって

アンもメアリーもハイジも セーラもドロシーも強かったのにって


(しあわせさがしはできましたか?)


パレアナがあなたの心の中で笑う

たくさんの笑顔と勇気をもらってきたはずなのに

どうしてみんな いじわるばかりをするんだろう


あなたの指は知っている

あなたの心が痛んだその瞬間のことを


クラスメイトの誰かが無自覚な刃をしのばせたとしても

青い春というくだらない二文字の前にそれは聖剣に映ったことだろう


あなたの指は覚えている

たいせつな誰かの頭を撫でたときのことを


たいせつな人たちがいた

みんないつのまにか 春風のように去ってしまった

あなたを黒い紙をもたせてしまった


だけどようく目を凝らしてごらん

いっとう輝く光が雪の結晶のように

煙突から吹き出す白い蒸気のように


繋いでいく繋いでいく

繋いでいく繋いでいく


星空は証拠さ

今が夜の底であり やがて次の朝を約束するという馥郁のメロディ


繋がれている繋がれている

もうすでに繋がれてしまっているんだ


あなたの指は求めている

その五指が紡ぎ出すあなただけのストーリー

あなたの好きなこと あなたが夢見たこと

それを あなたが 頭を 撫でたかった 誰かに


ほんとうに 頭を 撫でたかった あの人に

時を越え 世界を越え 夜を越えて 星を越えて



あなたの しあわせさがしはできましたか?



書こう 黒い紙を見ながら

黒い紙を見ながらでしか書けない冒険を


書こう 黒い紙を見ながら

黒い紙に連鎖する たしかな光の明滅を


あなたの指を待っている

あなたに頭を撫でてほしい多くの人が待っている


あなたの指は知っているでしょう?


応えなきゃいけない ってことを

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