ゴシック的描写研究 拾参回目
・私の執事は妙相な目つきで微笑むと、その門扉に手を伸ばす。間もなくして地下に、獣の咆哮の如く大きな音が響き、陥穽と振り子が抱擁を交わすように地面が揺れた。
・ヒンヤリとした地下の冷気が彼女の足元に纏わり付くように充満するさまは、今の彼女自身の心の蟠りを表しているかのようだ。
・ カツン、カツン・・・・・・・
階段の先、死の窖と言わんばかりに黒く染まったその闇は、確実に彷徨うものを蝕んでいく。足を、手を、瞳を動かすごとに、その生命が深淵へと――死の奥処へとじわじわと吸われているように感じる。
・ゆったりと場を席巻するように広がるドレスの裾は、孤高の黒薔薇のように気高く、と同時に蝙蝠のような霊妙さを与え、その挙措を瀟洒なものへと変える。胸のブローチはやはり蝶の意匠だが、色は以前に付けていたものとは異なり、透き通るサファイアのようだった。
・ひっそりとひそみかえった、もの憂く暗いとある秋の日、空に暗雲の重苦しいばかり低く垂れこめた中を、私は終日馬にまたがり、ただひとり不気味にうらぶれた地方を通りすぎていた。そして夜の帳がおりかかるころ、やっと陰鬱なアッシャー家の見えるところまで辿りついた。
(『アッシャー家の崩壊』 著 エドガー・アラン・ポー/訳 河野一郎)
ゴシック的描写を書き連ねたい 【不定期更新】 十一 @ayamati
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