50話 凱旋
「「「「「ワーッ!」」」」」
「「……」」
【歩き屋】スキルを使い、郊外のスラム街から都へ戻る頃には、周囲がすっかり明るくなっていて、街道には多くの民衆が詰めかけており、兵士に連れられて王城を目指す俺たちに向かってひっきりなしに歓声を上げていた。
「スラムキングッ!」
「英雄、フォードッ! リリッ!」
「待ってたぜ、なんでも解決屋っ!」
「「「「「フォード、リリ、万歳っ!」」」」」
なんだか、王様にでもなったかのような気分に浸れるな、これは……。
そういや、郊外の巨大スラム街は魔境と呼ばれるだけあって、一流の冒険者ですらも行ったら帰還できない場所として知られてたわけで、しかもそんなところを平定しちゃったんだからな。俺たちの動向が民の間で話題になっていたからこそ、ここまで大勢の人が集まったのかもしれない。
リリなんてニヤニヤしながら手を振り返しちゃってる。調子に乗って投げキッスまで……。しかしよく考えてみたら、彼女は孤児だったわけで、とんでもない成り上がり方をしているわけだな。あげまんなんて自称してたことがあったが、それどころの話じゃなかった。
「フォードお兄ちゃんっ! リリッ! お帰りっ!」
「「あっ……」」
お、あれは……モモだ。こっちに向かってジャンプしながら手を振ってる。
「フォードさん、リリさん、お帰りなさーい!」
「お帰りニャー!」
「おかえりみゃぁー」
その隣にいるのはウサリアで、さらには亜人姉妹のネネとミミの姿もあった。その上、【鬼顔】のモイヤー、【笑いのツボ】のアイラ、【大興奮】のマダランとその子息、さらには【観察眼】のおじさんもいる。
ん、しかももう一人、なんか見覚えのある人がいると思ったら……エルフのレティシアだった。こっちに向かって微笑を浮かべながら静かに手を振ってる。こういう、注目が俺たちのほうに集まる状況だからいいものの、彼女の存在を周りに気付かれたらとんでもない騒ぎになりそうだ。しかし、まさか彼女まで歓迎してくれるとは思わなかった。
こういう状況だし、ただ単に立ち寄ってみただけかもしれないが。あの人を見てビクッとする程度ってことは、それだけスラム街で成長した証拠なんだろう。リリも一瞬青ざめた顔になったが、すぐに元の明るい表情に戻っていた。
やがて、王城へと歩を進めてきた俺たちが、謁見の間へと入るのにはそう時間はかからなかった。以前の重苦しい心境のときと違い、一瞬のようにさえ感じるから不思議だ。メアたちと別れるときは辛かったが、都へ帰ってきたっていう喜びが強かったからだろうな。
「――ブツブツ……お主たち、ご苦労であった」
「ははぁっ、王様っ、ありがたきお言葉っ……!」
「お言葉ぁっ!」
俺はリリとともに王様に向かってひれ伏するのと同時、彼に対して【声量】を使うのも忘れない。理不尽な話ではあるが、国王のような立場の人間から声を掛けられて聞こえませんでした、では済まないからな。
「コホンッ……」
大臣が王の顔を色を窺うように咳払いしたあと、一歩前に出てくる。
「フォードとリリよ、お前たちは本当によくやってくれた。一月も経たずして、魔境とまで呼ばれた郊外のスラム街を平定するとは、本当に立派なことだ……!」
「大臣様、滅相もありませんっ!」
「滅相もないっ!」
大臣が満足そうに何度もうなずいてるが、どうにもきな臭さを感じた。何か目が泳いでるというか、こっちに対して不自然に気を遣ってる感じがあるんだ。気のせいだといいが……。
「こうして、突然呼び寄せる形になってしまったが、これはスラム街がすっかり平和になったと聞き、王様が心配りをなさった形なのだ。早く都へ戻りたいという気持ちがあるだろうから、と……」
「「な、なるほど……」」
果たして本当にそうなんだろうか? こっちが穿った見方をしているだけかもしれないが、何故か妙に気になった。
「ホッホッホ。余は満足である。では、大臣よ、この者たちに褒美を取らせるがよい」
「ははぁっ、王様……!」
大臣が勇ましく手を叩き、使いの者が小袋を二つ俺たちに渡してきた。
「「おぉっ……!」」
袋の中を覗き込むと、金貨が10枚入っていた。二人で20枚だ。うーん……正直100枚くらい貰えるんじゃないかって期待してたんだが、意外とケチだな……。
まあこれでもかなりの大金に違いない。なんでも解決屋のスタイルは崩したくないし、屋根をつけたり手前の狭い道を拡張したり、そういう用途に使うとしようか。
「では、隣国との交渉がある二月後に、また会おうぞ。ブツブツ……」
「「は……ははぁっ!」」
王様の声がまた聞こえ辛くなった。個人差があるとはいえ、もう【声量】の効果が切れちゃったのか。いくらなんでも早すぎだろ……。
◆◆◆
「ふう。あやつらがいつ暴れ出すか、余はヒヤヒヤであった……」
「お、王様、さすがにそれは、いささか考えすぎかと思われますが……」
「ふん……大臣、貴様はバカのお人よしだから理解できぬのだ。間者の話によれば、なんでも解決屋のフォードとリリは様々なゴミスキルを繋ぎ合わせ、自由自在に使いこなしているという。あやつらにスキルを拾わせないように命じたのも、これ以上の力を持たせぬためである。このまま野放しにしてしまえば……ブツブツ……」
「王様……?」
「ブツブツ……」
「王様ぁ……?」
耳に手を当て、怪訝そうに近付いてきた大臣に向かって、王が触れるほど顔を近付ける。
「かあぁっ!」
「ひっ!?」
驚いた様子で尻餅をつく大臣の足元に、王が真っ赤な顔で小剣を突き立てた。
「聞こえるかぁ?」
「は、はひっ……!」
「では改めて言おう……。フォードとリリが、民の圧倒的支持を後ろ盾に、国を乗っ取るべく反乱を起こす可能性すらあると言っておるのだ!」
「そ、そそそっ、そんな、まさかぁ……」
「そのまさかだ。隣国との交渉が済んだら、真っ先に始末せねばならん……」
「お、王様ぁっ、どうかお考え直しください! 多くの人々を救ってきた彼らを処刑してしまえば、それこそ反乱を助長しかねませんぞ!?」
「それなら、国は一切関与していないことにすればいいだけだ。密かに殺し屋を雇い、始末しよう。不幸な事故だったということにすればよい」
「し、しかし……」
「大臣……貴様は余に言われた通りにすればよいのだあぁっ!」
「はっ、ははあ……!」
額突く大臣に向かって叫ぶ国王の顔は、その場にいる誰もが正視できないほど恐ろしい形相であった……。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間からプライドを粉々にされた俺、拾ったゴミスキルを自分だけのオリジナルスキルに変えて何でも解決~ 名無し @nanasi774
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