49話 急転直下
「――フォ、フォード、これなんだけど……」
「……あ、ああ、リリ、ありがとう」
早朝、俺は教会の入り口にてリリから神授石を受け取ったわけだが、期待した数とはかけはなれていて、たったの5個だった。
このスラム街の教会に神父が戻ってきて、さらにメアの同僚のシスターたちも帰ってきたことで、スキルを与える洗礼の儀式が最近になって再開されたんだ。
んで、その翌朝になったらリリがはりきって早起きして拾うと宣言した結果がこれだった。
「もっとあるって思ってたのにねえ。残念だよ……」
「誰かに拾われたとか、あるいは外れスキルが少なかったとかかな」
「そうかも……。隅々まで探してこれだからねえ……」
「……こうなったら、儀式のあとすぐに拾いに行ったほうがいいのかもしれないな。あるいは、メアやユユに頼んでおくとか……。時間帯が深夜なだけに、二人にお願いしたほうがいいか」
「あたしもそれがいいと思う」
ただ、それでも一日で5個拾えたんだ。あとで
最近じゃ、住民の依頼の多様性からかなんでも解決できないことも増えてきていたので、これで選択肢も増えて解決に繋がってくれるはずだ。
「――ふわあ……フォード様、リリ様、随分早起きでいらっしゃいますね……」
「――ふわ……早起きじゃな……」
「あ、メア、ユユ、ちょうどよかった。リリ、あの件について二人に話してくれ」
「うん、任せといて! メア、ユユ、あんたたちに話したいことがあるんだよ。神授石の件なんだけどさあ――」
「――あ、あれはっ……!」
「――後ろを見るのじゃ」
「「えっ……?」」
メアとユユの眠そうだった目が見開かれたことで、俺たちは異変に気付いて振り返ったわけだが、教会に兵士たちが入ってくるところだった。おいおい、これは一体、どういうことだ……? 立派な口髭を蓄えた一人の兵士が代表するように近付いてくると、俺たちの前にひざまずいた。
「王命により、なんでも解決屋のフォードどのとリリどのをお迎えにあがりました!」
「「「「えぇ……?」」」」
俺たちは怪訝そうな顔を見合わせる。スラム街でなんでも解決屋を始めてから、まだ一月も経ってないはずだが……。
「ちょっと待ってくれ。話が違うぞ」
「そうだよ。都へ帰るのは、まだ先の話じゃないのかい……?」
「それが、スラム街の平定に成功したとのことで、一月待つ必要もなく、予定より早くこうしてお迎えすることとなった次第であります」
「なるほど……。どうしても今すぐ行かないとだめなのか?」
「これは王命でありますので、もし従ってもらえない場合、あなた方は罪に問われることになります」
「「「「……」」」」
俺たちはなんとも微妙な顔を向け合うこととなった。まさか、こんな形で別れるときが来るとはな。当然だが、まだ先だと思ってただけに、心の準備が全然できてなかった……。
「そういうわけだ、メア、ユユ……これから都へ帰ることになった。元気でな」
「メア、ユユ、あたし、楽しかったよ……」
「ぐすっ……ま、まだ帰っちゃ嫌です……!」
「そうか。遂に別れのときなのじゃな……」
俺たちはしんみりとした、それでいてひんやりとした空気に包まれる。メアの悲愴感が漂う顔と、ユユの虚無的な表情がとても対照的だったが、滲み出る寂しさは同等のものを感じた。それでも、前に進んでいかなきゃいけない。いずれはこうなる運命だったんだから、少し遅いか早いかだけだ。
「みんなとここで過ごした日々のことは、一生忘れないつもりだ……」
「うん。あ、あたしも忘れないよ……」
「は、はい! 私も絶対に忘れません。またいつか、お会いいたしましょう……!」
「うむ……我も忘れぬ。必ずや、いずれ再会できると信じておるのじゃ……」
俺たちは悲しみを飲み込むかのように、強い表情でうなずき合うのだった。
メアとユユには、聖なんでも解決屋を引き継いでもらおうと思う。これは以前から考えていたことで、捨てられたスキルに加えてユユの【改造】スキルさえあれば大丈夫なはずだ。スキルじゃなく客のほうを弄ることになるわけだが、それでもアッシュたちの偽なんでも解決屋よりは遥かに頼りになるだろうから。
◆◆◆
「――ただいまぁー」
「どうでしたか、パルルさん」
「どうだったんだ!? パルル!」
「どうでしたの? パルル」
「……」
教会から少し離れた一層薄暗い茂みにて、ハロウドたちの元へ戻ってきたパルルは、ゆっくりと首を左右に振ってみせた。
「それがねぇ、なんでか知らないけど、神授石が全然落ちてなかったのー。それで隈なく探そうと思ってうろついてたら、フォードの連れが来て、同じように探し始めたからトンズラー……」
「「「はあ……」」」
ハロウド、アッシュ、グレイシアの溜め息が重なる。
「これ以上フォードさんにパワーアップされたら困ると思っていたのですが……何者かに先を越されてしまいましたか……」
「けどよ、フォードの連れが来る頃にはもうなかったんだろ? やつらに拾われなくてよかったぜ」
「確かに、アッシュの言う通り不幸中の幸いといったところですわ……」
ほっとした表情を見せる面々だったが、まもなく周辺が騒々しさに包まれ、一転してはっとした顔になる。見ると、兵士たちが教会に向かって行進しているところだった。
「あ、あれはまさか、もうフォードさんたちを都へ連れ戻すつもりなのですか!? まだ一月経ってないはずですが……」
「お、おおいっ! そんなん聞いてねえぞぉぉっ!?」
「そ、そんなあー。じゃあ、ここで終わり……? パルルたちの今までの苦労は一体なんだったのぉー?」
「あ、ありえませんわ……こんなのおかしいですことよ……!」
現実逃避した様子のアッシュたちだったが、やがて兵士たちとともにフォードらが教会から姿を現わしたことで、一斉に天を仰いだ。
「も、もうダメだあぁっ! 終わりだああぁっ!」
「パルルも、ぎぶあっぷ……」
「わたくしも、さすがに疲れましたわ――」
「――フフッ、アッハッハッ……!」
「「「ぐ、軍師……?」」」
唐突に笑い始めたハロウドにメンバーの注目が集まる。
「遂に、フォードさんは僕を本気にさせてしまったようです……。フフッ! あなたが初めてですよ、フォードさん、僕をここまで追い詰めたのは。だがしかし、勝負はここからです。今、始まったばかりなのですよ……。アヒャッ……アヒャヒャヒャヒャッ……! ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャアアァッ!」
「「「……」」」
ハロウドの狂ったような哄笑が周囲に響き渡った……。
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