みんなから愛されている人物が、代書屋のおじいさん

今となっては昔のこと。あるところに、代書屋のおじいさんがおりました。

 掴みから最高ですよ。一発で作品の持つ雰囲気が伝わってきます。この一文から始まるドラマは、どこも温かく、それでいてグッと琴線を掴まれました。
 代書屋のおじいさんに接する周りの人々の様子から、このおじいさんがどんな人なのか、どれほど信頼され愛されているか、よく伝わってきます。
 おじいさんは一人身であり、猫のシピとだけ暮らしていますが、そこに猫だけを頼りとする寂しい老人像はありません。
 おじいさんは、自身の文字を綴ることを忘れていました。無我、としては言葉が強いですが、無我のように人が人のために送る言葉を書き、読んできました。
 そんなおじいさんが自分の人生を綴ることを、楽しいと言う。それでも、読んで貰いたいと気概に猛ることはない。そして、一節披露し、涙を流して「この本は、わしそのものです」、と。
 だんだん読んでいる私も、おじいさんのことを信頼し、愛おしく思い始めていました。
 おじいさんに、私も何か代書を頼みたい。