第48話 番外編 愛死館のチョコレート
愛死家は愛詩家の親戚筋に当たる。
愛詩方は、又従姉妹の愛死鱒に誘われて、愛死の家、通称「愛死館」を訪れた。
2月14日のことである。バレンタインデーだ。
年下の女の子、鱒はチョコレート作りに奮闘していた。
「ちょっと待っててね。本命チョコを作っているから」
方は困ったことになったと思った。彼は妹の愛詩輝を愛している。義理ならともかく、本命は困る。
しかし面と向かって断ることはできず、仕方なくリビングで待った。
キッチンからは異様な臭いが漂ってきた。
「市販のチョコレートを溶かして、型に入れるだけじゃつまらないわよね。胡椒を入れてみるのもいいかしら。オレンジの皮も捨てがたいわね」
愛死鱒の手料理を食べたら、寿命が縮むと言われている。輝は鱒のカレーライスを食べた後、ひどい下痢に悩まされていた。それを方は目撃している。
怖い!
鱒の手作りチョコレートが怖い!
「ららら〜愛のチョコレート〜ららら〜死のチョコレート〜♪」鱒が歌いながら、チョコを作っている。異臭が耐えがたいほどになってきた。アンモニア臭に似ている。本当に死のチョコレートかもしれない。
「おおっと、いい匂いになってきた」
鱒よ、おまえの鼻はおかしい。
「できた!」
ついにできちまったか。
愛死鱒の手作りチョコレート。
鱒がそれを可愛らしくラッピングし、方に手渡した。
「死ぬほど愛してます」と彼女は告白した。
「あ、ありがとう。チョコは帰ってから家でいただくね」
「はい」
方は愛詩家に帰り、チョコレートを一口だけかじった。
鱒に感想を伝えなければならないと思ったから。
失敗だった。致命的な失敗。
方は瀕死の腹痛に陥った。入院した。
恐怖のチョコレートが彼の部屋に残されていた。
愛詩輝がそのチョコを拾った。
臭いで鱒が作ったチョコだとわかった。
兄貴、これを食べたのか。死ぬかも。
彼女は合掌した。
愛死鱒は愛詩方を愛している。彼が重度のシスコンとも知らずに。
作家志望愛詩輝の私小説 みらいつりびと @miraituribito
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