第3話 夢のようなハッピーエンド(3/3)

 メイドさんは美人なだけじゃない、とても有能な人だった。

 私がハーブを使ってみんなをハッピーにしたいと言っただけで、そのために必要なことを全部手配してくれた。

 そんなわけで今日も今日とて、メイドさんが手引きしてくれたおかげで、新生共和国の偉いオジサンがお忍びでやって来る。


「やあやあ、どうもポピー姫。なにやらおもしろいものを作っているとか……」


「はいっ! こちらをどうぞぉ!」


「ほう、これがウワサの葉巻ですか。うーん、嗅いだことのない良い香りですなぁ」


「まあまあ、とりあえず一服どうぞぉ!」


「ああ、火をどうも。スゥ~~~ハァ~~~……んぉぉぉおおおっ⁉」


「ふふっ」


 これでこのオジサンもちた。

 むしゃぶりつくかのようにスパスパと、すっかり大麻のとりこだ。


「それじゃあオジサン、【例の件】よろしくお願いねー!」


「あぁポピー姫、分かったぁ……だからもう1本、いや2本……やっぱりあと3本いまのと同じ葉巻をちょうだいよぉ……!」


「例の件がちゃんと上手くいけば、これから3本どころか何本でも吸えるようになるよぉ? だからそれまでお預け~」


「う、うぉぉぉぉぉおっ! 分かった、すぐにやってやるぅ!」


 オジサンはドアを蹴破る勢いで別宅から出ていく。

 今日も共和国シャブ漬け戦略は順調なようだ。




 ──そんな日々が3週間続き、そしてその日はきた。




〔ヒヒーンっ!〕


 キキィッ! と。

 けたたましい馬の鳴き声とドリフトでもしたのかと思うような馬車のブレーキ音を響かせて、別宅へと険しい顔でキョーワコクチョーがやって来た。


「これはどういうことだッ! ポピー姫ぇッ!」


 バンッ! と戸を開け部屋に入ってきたキョーワコクチョーは、私に1枚の紙を突きつけた。

 

「これは今日の共和国民主会議で提出された【ポピー姫の処刑撤回てっかい案】だ! しかも出席者の過半数がこれに賛成すると言っている!」


「うわぁお! やったぁ! 努力が実を結んだよぉっ!」


「ぐぬぬ、やはり貴様のしわざだったかポピー姫ぇッ!」


「えへへ」


 私がアイディアを出した【ハーブでみんなをハッピーに作戦】。これは大麻の力で国のみんなの心を掴んで私の処刑をやめてもらおうという作戦だ。

 それに際してまずは国の中心人物の買収から始めるのがいいでしょう、ってメイドさんに言われたからこれまでの3週間できるだけたくさんの偉いオジサンたちをヤク漬けにしていたのだ。


「イライラしててもしょうがないし、とりあえずキョーワコクチョーも一服しちゃう?」


「誰がするかっ! それにいったいなんだっ? この撤回案の後に書いてある【ポピー姫による慈善活動で元王族と民衆との間のみぞを埋めちゃおう作戦】とはっ⁉」


「え? 漢字いっぱいで読めないから知らない……」


「ことごとくバカにしやがって! いいだろうなら俺が読んでやるっ! ここにはなぁ、【国民1人1人にポピー姫がハーブを配ることでみんなが幸せになりハッピーな国ができあがります】なんて訳の分からん戯言ざれごとが書いてあるのだッ! 提出してきたのは我が共和国でもキレ者のはずの議員だが、頭がイってるとしか思えんッ!」


「あー、ハーブ以外にもいろいろ混ぜたの渡したからかなぁ」


「クソ……この王国の忘れ形見ごとき害虫がぁッ! よーくも我々の仲間の頭をおかしくしたなぁッ!」


 ズンズンとキョーワコクチョーが迫って来る。

 腕を振り上げて、また私を殴るつもりっ?

 

 ──そうはさせるか!


「ハーブ・パワーッ!」


 私が叫ぶと、ガシッ!

 キョーワコクチョーの取り巻きたちがいっせいにキョーワコクチョーを取り押さえて羽交い絞めにする。


「なっ⁉ お前たち、なぜ俺のことをっ⁉」


「甘いなぁ、キョーワコクチョー。この部屋にいる全員、ハーブで頭がパッパラパーになっているのさ!」


「なっ、なにぃッ⁉」


 キョーワコクチョーの取り巻き立ちは全員ヨダレを垂らしながらキョーワコクチョーにしがみついている。

 そのゆるみ切った顔にはすでに知性のカケラも感じられない。


「もうお前の仲間はみんなハーブの奴隷なのだキョーワコクチョー!」


「なんてことだ……! おい、お前らみんなそれでいいのかっ? このポピー姫によって国中ヤク漬けにされてしまうんだぞッ⁉」


「素直になりなよ、キョーワコクチョー。キョーワコクチョーだってハッピーになりたいでしょ?」


「誰がハッピーになど……!」


「ウソだよ。王族を殺して共和国を作ったのはキョーワコクチョーがハッピーになりたかったからでしょ? いつも難しい会議をして大変な思いをして共和国を動かしてるのはみんなをハッピーにしたいからでしょ?」


「い、いきなり何を言い出し始めるポピー姫……?」


「つまりね、私とキョーワコクチョーは同じなんだよ。みんなをハッピーにしたいって思ってるんだから。だからね、キョーワコクチョーは私を殺す必要なんてないの……あ、メイドさん、【アレ】持ってきて」


 私が言うと、メイドさんが【白い粉】を持ってきてくれる。


「ねぇ、キョーワコクチョー。ここの庭すごいよねぇ? 取りつくせないほどの大麻が生えてるし、それに【ケシ】も生えてるなんて。コレはね、その2つをブレンドして完成した最高傑作けっさく、名付けて【ダザイバースト】だよぉ!」

 

「や、やめろ……! それをいったい、どうする気だ……!」


「キョーワコクチョーもハッピーになろう? そしてみーんなでハッピーになれる、そんな国を作ろうよぉ!」


 紙で作ったストローに白い粉を詰める。

 それをキョーワコクチョーの鼻にぶっ刺して、鼻以外から息が吸えないように口をふさいだ。


「~~~~~ッ!」

 

「そら、イッキ♡ イッキ♡ イッキ♡」


「~~~~~ッ!」


「ちゃんと吸うまで終わらないよぉ? ほれ、イッキ♡ イッキ♡ イッキ♡」


 キョーワコクチョーは必死で呼吸をガマンしてたけど、残念。

 人って自分で息しないで死ぬってできないんだよねぇ。

 エラ呼吸できればよかったのにねぇ。


 スゥッ、と白い粉がキョーワコクチョーの鼻に吸い込まれていった。

 次の瞬間、


「バーーーストッッッ‼」


 キョーワコクチョーの喜びの声が部屋中に響き渡った。

 よかったぁっ! 

 ガンギマリしてくれたみたい!


「キョーワコクチョー、ハッピー?」


「イェーイッ! ハッピィーーーッ‼」




 ──それからの新生"ハーブ"共和国はハッピーだった。




 国民に常用のハーブが配られみんな毎日モクモクと煙を吐き出している。

 週に1回の安息日には各地の教会でダザイバーストが配られてガンギマリの1日を過ごし、翌日からまたお仕事をがんばれる幸せな日々だ。

 

 良いニオイの煙に包まれた共和国は幸せなノロシを上げる国として世界的に有名になりその立て役者である私はハリウッドデビュー。


 ハーブの女神、誰かが私のことをそう呼ぶと、私の背中からは白い羽が生えてきた。オーマイガー。


 これで私は新世界の神となった!


 さあ私を称えよ皆の衆!

 

 ハーブの女神ポピー姫バンザイ!

 ハーブの女神ポピー姫天下一!

 ハーブの女神ポピー姫最高!


 ハーブの女神アケミ最高! 

 アケミぃ!

 アケミぃー--っ!


 目を覚まして、アケミちゃーん!




 * * *

 



「……ぐへへ、私はぁ、ハーブの女神ポピー姫ぇ……ぐふふぅ」


「アケミ、アケミちゃーん! 起きろアケミー! 先輩来てるよっ!」


 ゆっさゆっさ。

 激しく体を揺らすけど、それでもアケミが幻覚から覚める気配がない。

 めっちゃニヤけてるし、きっとグッドトリップしてるんだろうけど……。


「おい、チカぁ……」


「ひ、ヒィッ! な、ななな、なんでしょーか先輩……」


「アケミが目を覚ましたらアタシんとこに連れてこいや。儲けを出さないうえに商品にまで手を出しやがって……ったく、仕方のないヤツ。前歯折ってやる」


「は、はい……」


 先輩が立ち去っていくのを見送ってから、はぁ、とため息。


「アケミ、可哀そうに……」


「……ぐふふ……私をあがめよぉ……」


 そうだね。

 いまだけは良い夢を見るといいよ。

 きっと起きたら地獄が待ってると思うから。




~FIN~




===================

あとがき




麻薬は人生を狂わせますので絶対に使っちゃダメですよ。


あと作者は麻薬好きとかそういうことはいっさいありません。


誤解なきように。。。


でも書いてておもしろかったので需要あればアケミちゃんの他の話も書いてみたいなとおもっています。


それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤク中ド底辺の私は処刑間近の姫に転生したけど、処刑なんて良くないよね? ハーブ(意味深)の力で国のみんなをハッピーにして取り消してもらおう! 忍人参(NinNinzin) @super-yasai-jin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ