第2話 処刑をやめてもらおう(2/3)

 ここまでの流れ、そして鏡で見た自分の姿からして、どうやら私はポピー姫とやらになってしまったらしい。

 どうしてそうなったのかは分からないけど。


「ポピー姫、今日からお前にはこの別宅で過ごしてもらうぞ」


 人々から散々なヤジを飛ばされたあと、私はキョウワコクチョーに馬車で森の奥まで連れて来られた。

 そして降ろされたその場所にあったのがその別宅とやら。

 白い壁、広いお庭付きのおうちだった。


「あのー、私ホントはポピー姫じゃないんですけど」


「ふっ、馬鹿げたことを」


 キョーワコクチョーに鼻で笑われた。

 まったく信じてもらえていないみたい。


「いいか? ここには何人もの屈強な警備が控えている。逃げ出そうなんてことは考えるんじゃないぞ?」


「ねー、私ホントに処刑されちゃうの?」


「そうだ。お前たちは王族は国の金を湯水のように使って民を苦しめる害虫だ。害虫は死に絶えなければならん」


「ヤダよ……謝るからさ、やめようよ……」


往生際おうじょうぎわが悪いぞ! 謝って済むものかっ!」


「【おうじょーぎわ】ってなに? それが良くなれば許してくれる?」


「チッ! 馬鹿にしやがって!」


 ガツン! とグーで顔を殴られた。

 シンプルに痛い。


「30日という短い余生をせいぜい後悔しながら過ごすんだな!」


 キョウワコクチョーはそう言い残すと去っていった。

 【よせい】ってなに? 

 みんな難しい言葉ばかりしゃべるから分かんないよ。


 私はそれからすぐに屈強な兵士に両脇を抱えられてその【べったく】とかいう家に押し込まれてしまう。

 ドアの向こうで私を出迎えたのはきれいなメイド服を着た美人さんだった。


「ごきげんよう、ポピー姫。これから30日間、姫様のお世話係を務めますメイドのフェッチです」


「わー、可愛い服ー」


「……姫様、鼻血が出ておられますが」


「あ、うん……なんかドツかれちゃった」


 メイドさんはハンカチで私の鼻血を拭き取ってくれた。


「ねぇ、メイドさんは私の味方?」


「いえ、私も王族は大嫌いでございます」


「えー……なんで?」


「なんで、って……それはだって、王族の方は貧しさに苦しむ私たち平民になにもしてくれなかったではないですか。それどころか自分たちばかり贅沢をしていたんですから。クーデターが起きて国王様や王妃様が殺されてしまうのも仕方ないでしょう」


「へー……そうなんだ」


「そ、そうなんだ、って……そんな他人事みたいに……」


「え?」


「……もういいです。さあ、姫様こちらへ。お部屋へご案内します」


「あ、ちょっと!」


 メイドさんはスタスタと、背中を向けて廊下を進んでいってしまう。

 それからなにを話しかけてもあまり返事をしてくれなくなってしまった。


「こちらが姫様のお部屋です」


「ひろーい」


 案内された部屋はそこだけで私と妹が2人で暮らしている家賃月3,000円で風呂無し電気無し水無しガス無し窓無し1K物件の3倍はあった。

 テーブルにふかふかベッド、暖炉があってなんだか洋風チックだ。

 しかも大きな窓からは庭にも出られるみたい。


「……姫様の王城のお部屋はこの部屋の倍はあったと聞いてますが?」


「えっ、そうなの? それって3LDKってやつ?」


「さんえる……? さあ、それは知りません。では、私はこれで。ご用があればお申し付けください」


「あっ……」


 メイドさんは行ってしまった。

 急にひとりになってしまう。

 なんだろう、怒らせちゃったのかな。


「私チカちゃん以外にはなんか避けられて友達もいなかったし、友達作り下手なのかなぁ……」


 気分が落ち込んでくる。

 なんか気づいたら処刑されるお姫様になってるし、チカちゃんもいないし。


「はぁ……気分転換に庭でも散歩しよ」


 ガラガラと、窓を開けて庭へ。


「庭が無くても部屋が狭くてもいいから元の家に帰りたいな……」


 庭は結構広くて、奥行きもあった。

 きれいな花はあまり生えてなくて、あまり手入れされたないのか雑草がボーボー。


「あれ? てかこれハーブじゃん」


 なんか枯れてるけど……これは確実に大麻だ。

 前に先輩から栽培を任されたことがあったから見間違えることはない。


「なにこれ(笑)なんかいっぱい生えてるんですけど(笑)」

 

 こんな堂々と……通報されたら一発アウト。速攻マトリ(麻薬取締官)が飛んでくるのにね。

 よくこれまで焼かれずに残ってたなぁ。


「この家の人はとんだ素人だったんだなぁ。こういうのは部屋の中で細々と栽培するものなのにさぁ」


 ペキペキといい感じに枯れて乾燥しきっている大麻の枝を折って回収する。

 それでもって部屋に戻って砕いて小さな破片にする。

 それをグルグルと紙で何重かに巻いて筒状にして、火は暖炉で燃えている薪からもらう。

 

「よしよし、いっただっきまぁ~す」


 スゥ~~~~~。


「ゲッホゲホッ! けっむ~い」


 吸えなくもないけどフィルターが無いからかなり吸いづらい。


「あ~~~でも染みるなぁ~~~」


 スゥ~~~ハァ~~~。


「やっぱり落ち込んだ時はハーブだよぉ。あぁ~心がふわふわ~……」


「姫様っ? 変なニオイがしてきますがいったい何をしているのですっ?」


 ガチャリと戸を開けたメイドさんが、一服キメる私を見て固まった。


「あ~……ごめんねぇ、外で吸えばよかったねぇ~」


「な……そんな贅沢ぜいたく品、いったいどこから持ち込んで……?」


「自分で作ったのぉ。メイドさんも吸うぅ?」


「わ、私などが吸っていいわけ……」


「大丈夫だよぉ、みんな吸ってるよぉ~? 私のママもやってたし~友達のチカちゃんも吸ってるからぁ~」


 メイドさんはゴクリと喉を鳴らした。




 ──タバコって、偉い人しか吸えないものだったんだって。




 メイドさんが私の作ってあげたハーブをスパスパやりながら【ジョーリューカイキュー】ばかりズルいとかなんとかグチっぽく言ってた。 

 だから私がハーブの吸い方を教えてあげるとすごく喜んでくれた。

 えへへ、『ありがとう』って言ってもらえるとなんだか私も嬉しいなぁ。


 3日もすると私たちの吸っているハーブのことが警備の人たちにも伝わって、みんなハーブをせがんでくるようになった。

 なんだかいま、私、人生で一番人に必要とされている気がするなぁ。

 せっせと作ってハーブを渡してあげるとやっぱりみんな喜んだ。

 リビングでみんなで集まってスパスパやって、ちょっとしたパーティー状態。


 いまや、あれだけ私に対してトゲトゲしていた雰囲気はどこにもなかった。

 むしろみんな私といっしょに楽しい時間を過ごしてくれている。

 それもこれもハーブ……大麻のおかげだ。


「そうだぁ、国のみんなにもハーブをあげればきっと喜んでくれるしぃ、そしたら処刑されなくて済むかもぉ~!」

 

 大麻がキマってハイになった私の頭は冴えわたったのだった。

 よぉ~し、共和国シャブ漬け戦略の開始だぁ!


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