ヤク中ド底辺の私は処刑間近の姫に転生したけど、処刑なんて良くないよね? ハーブ(意味深)の力で国のみんなをハッピーにして取り消してもらおう!

忍人参(NinNinzin)

第1話 処刑間近の姫に転生しちゃったよ(1/3)

「スゥ~~~……ハァ~~~……」


「ちょっとアケミ、吸いすぎじゃね?」


「だってさチカちゃん、なんか今日は全然気持ち良くトリップできないんだもん」


 溜まり場になっている廃ビルの1室。

 2人でモクモクとハーブをやってる。

 つまり大麻のことね。

 私たちの間ではハーブって隠語で通してる。


「なーに、アケミ、またヤなことでもあったの?」


「さすがチカちゃん、するどいー」


 幼なじみで親友のチカちゃんは、私の考えてることなんてお見通しみたい。

 さっすが小学校卒業式経験者だ。

 1人だけランドセル持ってない&給食費払ってなくてイジメられるのがイヤで小2で学校辞めた私とは違って漢字も読めるし、あったま良いなぁ。


「実はねぇ、先輩から売らされてる新しいネタをサバけなくてさぁ、これじゃまた殴られちゃうよぉ」


「あー。アケミ下手だもんね、客引いてくんの」


「うん……チカちゃん、私もう売りたくないよぉ。私はフツーにハーブやって、そんで妹を食べさせていけるならフツーのバイトでもいいのにさぁ……」


「抜けられないよね。先輩コワイし」


「うん……」


 先輩は別に学校の先輩だった人とかじゃなくて、遊ぶ場所もお金もなくて夜に駐車場でチカちゃんとダベってた時に私たちに初めてハーブをくれた女の人だ。

 めっちゃきれいな人で、ハーブは美容に良いとか、モデルとかみんなやってるからって教えて勧めてくれた。


 最初はタダでハーブ分けてくれてたんだけど、これもいちおうお金かかるからこれからはお金払ってねって言われたけどお金なかったし、代わりにヤクの売人のお仕事手伝うことになったわけ。


 でも先輩優しくて、私がたまに儲け出せたらすっごく褒めてくれるし、たまにお小遣いくれたりご飯おごってくれるんだよね。

 その代わり仕事断ったりミスったりしたら殴られるんだけど。


「はぁ、ユーウツ……そうだ、売れなかったし、コレ試しちゃおっかなぁ」


 私は地面に置いてたバッグから白い粉の入った透明のパケを取り出した。


「それが先輩にサバけって言われてたネタ?」


「うん、【ダザイバースト】って名前らしーよ。ヘロインになんかよく分かんないのが混ざったやつだって先輩が言ってた。これ食ったらトリップできるかも」


「ふーん。バレない程度にしときなよー?」


「分かってるってー」


 サラサラサラ、とパケからスプーンへと少量、粉末を注ぐ。

 ヘロインと同じくコイツもあぶって出る煙を食うタイプだ。


「あっ」


 そうだ、ジッポ持って無いや。

 今日はライターしかない。

 ライターは使い続けると指が熱いんだよね。

 

「ねぇ、チカちゃん。ジッポ持ってたり……」


 そう訊こうとした私の言葉を止めたのは、それはそれは恐ろしい声だった。


「──おらっ、アケミーッ!」


「っ⁉」


 廃ビルに響き渡ったのは先輩の声だ。

 しかもけっこーキレてるヤツ。

 たぶん、いつまでも売り上げ報告をしなかった私を探しに来たんだ。

 ビックリしすぎて息をのんで……。


「あっ」


 スゥッと。

 スプーンに乗せていたダザイバーストを飲んでしまった。

 しかも鼻から。

 

「あぁ~~~っ!」


 炙って食うやつを直喰いスナッフしちゃったよっ?

 やっちまった、これはすぐにラリるっ!

 そう思った瞬間にはもうダメだ。

 

「ら、ららら、ラ~~~~~ッシュッ!」


 私は叫んでた。

 叫ばずにはいられなかった。

 だって幸せな気持ちが爆発してしまったから。

 

 ザブザブザブと波打つように押し寄せる多幸感。

 あぁ、ハッピー!

 別になにかをしたわけでもないのに達成感があふれ返る。

 成功者のような気分が私を満たす。


「ウヘッ、ウヘヘヘヘッ、ウヘッ!」

 

「おい、ちょっ、アケミっ⁉」


 チカちゃんが遠くで何か言う。

 え? なに? ハッピー?

 私もハッピー!

 

「オベェッ!」


 なんか苦しい、ゲロ吐いたかも。

 息できない。

 肺がぞうきん絞りされるみたいに痛んで体が震える。

 でも幸せっ!


「アケミっ!」


 チカちゃんの声がどんどん遠くなる。

 ごめんねチカちゃん。

 私ちょっとアッチ行かなくちゃ……。

 どこか分からんけど、アッチ。

 ハッピーなトコロ。

 

 ──そして私の頭は真っ白になった。




 * * *




「──姫っ! ポピー姫っ!」


 体を揺さぶられていた。

 私はハッ、として目を覚ます。

 すると目の前には外国人のおじいちゃん。

 それと、黒いスーツみたいなのを着た男の人がたくさん、ズラリと、広い部屋に並んで座っていた。


「……お、オハヨーザマーっす?」


「オハヨー、ですと? なおも法廷を侮辱しますかポピー姫っ!」


 一番偉そうな場所に座っているメガネのオジサン(これも外国人っぽい)が言うと、部屋の視線が一気に私に集まってきた。

 

「先ほどから我々を見下した態度を取っていたかと思えば、今度は居眠りか! まったく、これだから王族は!」


「民を虐げて国を腐らせただけのことはあるな!」


「ああ、その声を聴くだけでも反吐が出そうだ!」

 

 え、なになに?

 めっちゃコワイんだけど。

 みんな私を指さして大きな声を出してる。

 怒ってるのかな、なんで?

 【ほーてー】とか【ぶじょく】、【おーぞく】? ってなに?

 ていうかここどこ?

 

「静粛にっ!」

 

 メガネのオジサンが、木のハンマーみたいなやつで机をバンバンっ! と叩いた。


「いまからポピー姫への判決を言い渡します。ポピー姫は極刑! 今日より30日後に王城前の広場にて公開処刑とする!」


 ワーっ! と、今度は部屋の全員が立ち上がって拍手し始めた。

 みんなニッコリ笑顔だ。

 なんだか話の流れとかよく分からないけど良いことでもあったのかな。

 

 でもよかった。

 笑顔ってことはもうみんな怒ってないってことだよね。

 私もとりあえず拍手しとこうかな、って思ったら私の腕は縛られてた。

 え、なんで?


「おい、動くなポピー姫」


 なんか私の後ろにいたオジサンににらみつけられた。

 え、どうして?

 ていうか……さっきからポピー姫ポピー姫って。

 それ誰よ?

 

 

 

 * * *




「痛い痛いっ!」


「騒ぐなポピー姫っ!」


「わっ、私アケミだしっ!」


 私の両腕を縛る縄を、なんかコワそうな口ひげオジサンに引っ張られて私はなんだかすごい長い廊下を歩かされてる。

 たぶん小学校の廊下より長いんじゃないかな、小学校どんなだったかあんま覚えてないけど。


「ねー、どこ行くのっ?」


「うるさいっ! 黙って歩けっ!」


「えー」


 口ひげオジサンからは乱暴な返事しか返ってこない。

 他の人に聞いたら今度は無視される。

 みんなツレないなぁ。

 にしてもホントにここどこよ?

 なんで私捕まってるの?

 私さっきまで溜まり場の廃ビルにチカちゃんといっしょにいたんじゃなかったっけ?


 なんだか広くてデカい階段を下りて、たぶん1階のエントランスっぽいところに着くと、口ひげオジサンの元にメガネの男が駆け寄ってきた。


「共和国長、こちらへ。国民たちがみな判決を待ちわびています」


「うむ。少し待て」


 口ひげのオジサンの名前はキョーワコクチョーっていうらしい。

 キョーワコクチョーは鏡の前まで行くと服装チェックを始めた。

 縄持ったままだったから、自然と私も同じの鏡を見ることになる。

 でも、その鏡に映ってたのはキョーワコクチョーと私……じゃなかった。


「はっ?」


 私、アケミの姿はそこにはなかった。

 そこにいたのはふわふわの金髪に気の強そうなツリ目をして、高そうなドレスに身を包んだヨーロッパ系の美少女だった。

 

 うわっ、きれいだけど高飛車そうな娘だなぁ!

 私はぜったい友達になれそうにないタイプー。

 で? 私はどこ?

 

 きょろきょろ。

 

 私と同じ動きをする金髪娘。

 えっ?

 

「なにこれっ⁉」


「うるさいぞポピー姫っ!」


「痛っ⁉」


 鏡の中でポピー姫と呼ばれた金髪美少女が悲鳴を上げる。

 いやちがう。

 声を出したのは私で、痛がったのも私だ。

 ていうことは……!

 

「ポピー姫って私っ⁉」

 

 そんなまさか、どうしてっ?

 これホントに私の顔っ?

 ほっぺたこねくり回して調べたいっ!

 でも腕が縛られてなにもできないっ!

 なんで縛られてるんだよ私はっ!


 ブンブンっ!

 

「ええいっやかましいっ! 腕を振り回すなポピー姫! 自分の立場をわきまえろっ!」


「えーっ! やっぱ私がポピー姫なんだっ! なんでーっ?」


「なにをとち狂ったことをっ!」


 キョーワコクチョーは顔を真っ赤にして怒ると再び私を引きずるようにして歩き出した。

 ちょっとちょっと、私まだ鏡に用があるんですけどー!

 

「無駄な抵抗をするなポピー姫! 王族としての最後の責任くらいキチンと果たすんだな!」


 がちゃり。エントランスの扉が開かれる。

 外は人々の騒がしくする声で満ちあふれていた。

 

「うわぁ……⁉」


 一歩外に出れば見渡す限りの人、人、人。

 しかもみんなこっち見てるっ?

 なんだか圧がすごい。

 

「国民のみなさんっ! 長らくお待たせしましたっ!」


 キョーワコクチョーが大きな声を張り上げると、場は一気にシンと静まった。


「喜んでください! いまやひとり残された王族、このポピー姫の公開処刑が決まりました」


「「「おぉぉぉっ!」」」


 集まった人々から喜びの声が上がった。

 え? 公開処刑? ポピー姫の?


「えぇぇぇっ⁉︎」


 ポピー姫って……たぶん私だよねっ?

 私、処刑されちゃうのっ?

 処刑って殺すってことでしょっ?

 なんで! そんなのイヤだっ! 


「処刑は30日後に王城前の広場で行います! 我が国から王族の血が絶える記念日です、みなさまぜひお集まりください!」


「ヤダヤダヤダヤダっ! 処刑ヤダーっ!」


「うるさいぞポピー姫! 天からの裁きがくだったのだ!」


「そうだそうだ! この人でなしのポピー姫! せいぜい30日間自らの行いを後悔しながら死んでいけ!」


「なにが『お米が無ければ雷おこしを食べればいいじゃない』だ! ふざけたこと抜かしやがって! 早く死ねー!」


 集まった人々からひどいヤジが飛んでくる。ついでに石も投げられる。


「痛い痛いっ! なんでこんなに嫌われてるの〜私〜! 助けて〜!」

 

 でもみんな、石を投げるのをやめてくれなかった。

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