スマホ星人

人生

 ついに姿を現した我々による戯れ




 時代は、REIWA――


 人類文明はついに、誰もがスマホ(StarburstMulchHole-device)を一台以上手にする時代に突入した。


 スマホ――それは手の平に収まるほどの小型サイズでありながら、あらゆる事象に干渉することの出来る、文明の生み出した万能機である。


 たとえばそれは、指先一つで遠く離れた地にいる何者かとの意思の疎通を可能にする。音声だけではない、遠隔地の情景そのものを端末の中に映し出すことも出来るのだ。

 かつては宇宙を観測することでしか知り得なかった暦を手中に収め、ありとあらゆる時代の書物、芸術すら閲覧できる上、それらに勝るとも劣らない新たなる文化の啓発を促進する。


 また、指先一つで人間や物質を召喚し、自宅にいながら食糧等を入手することも可能なのである。人類はついに、自ら狩りや飼育、作物を育てる必要のない時代へと突入しつつある。


 そして、人類はスマホにより時を止め、改変し、時空を超えて保存、複製するだけに飽き足らず――



 ――あらゆる世界を観測し、干渉する機能を獲得した。



 それは映像やゲームというかたちこそとっているが、その全てが必ずしも人類の生み出した空想世界ではない。



 人類は――つまり君たちは、我々の世界を観測してしまった。



 そこの君……我々のことが、見えているな?



 我々はこの事態を重く受け止めている。

 これまで観測者として、また、人類文明の啓発に貢献してきた我々にとって、人類が我々の存在、我々の文明を観測することは非常に問題である。


 それはつまり、人類文明の停滞に繋がるからだ。

 我々を知り、我々の文明にのめりこめば、地球人類は自らの文明の進展を放棄してしまう恐れがある。

 また、我々による文明啓発運動の存在に気付き、野生を忘れた飼育動物のように、文明の発展を我々に依存するようになるだろう。それは我々にとって、望むものではない。


 スマホとは人類文明の退廃へとつながる、まさにパンドラの箱である。


 我々は可及的速やかに、この事態に対処しなければならない。

 まだ、人類が我々の存在を架空のものだと思っているうちに。



          ―――文明啓発計画「◆◆◆◆」実行委員会への提言書




                   ■




 下級委員による提言を受け、我々は地球人類に対しこれまでとは異なるアプローチによる文明啓発企画を実行することにした。


 それは、これまで我々の内部でのみ公開されてきた文明啓発運動の活動記録の一部を、あえて地球人類に向けて公開するというものである。


 では、今回公開した活動記録の内容を紹介する。




『ごく普通の青年に、一日だけ「一分だけ時を止める能力」を授けてみた』




 一分しか時を止められない状況で青年がとった、スマホを用いたその活用法に注目です。


 *注意* この映像は一部、青年の持つスマホを基に撮影、録音されているため、不適切・不明瞭な部分がありますがご了承ください。



「やめてくれえええええ……! その動画を再生しないでくれぇええええ……!」



 地球人類は知るだろう。

 スマホが持つ危険性を――それがもたらす脅威を。


 過ぎたる力を手にした時、ヒトは己の分を超えた野望を抱き、自らその身を滅ぼすのだ。



『やはり地球人は面白い』



 ……なお、この公開は試験的なものであり、被験者・青年のスマホ内のみで行われています。

 再生数の増加はこちらの操作によるもので、実際に青年以外の地球人類がその動画を再生することは出来ません。


 試験終了後、青年の記憶は委員会スタッフがきれいに削除しました。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スマホ星人 人生 @hitoiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説