その名も、もとかず。

大創 淳

第四回 お題は「ホラー」or「ミステリー」


 ――今宵もPCに向かい執筆するも……全くの未体験ゾーン。確かに、これまでも初挑戦で綴られる僕の「KAC2021」だけれど、きっと初めは、何もかもが初めてだ。



 初めてがなければ、二度目もなく三度目もない。


 だから挑戦する今宵も。選択したのは「ホラー」……少なくとも体験はある。ただ苦手なだけで「ミステリー」のように未体験ゾーンではない。書ける、少々なら……



 ねえ、「ホラー」といえば「怖い」というイメージだけれど、

 ……ちょっぴり違うの。


 順序追ってお話するけれど、

 ……僕は、これまで何回か死にかけた。ううん、正確に言えば、もうこの世にいないはずの子だったらしいの。……と、とある占い師のお婆ちゃんが言っていたらしいの。


 ならきっと、お母さんのお腹の中で梨花りかが一緒にいてくれたから、励ましてくれていたのだね、この頃からずっと……そう思うと、少し怖いような気もした。


 生まれた頃は、もう別々。

 怖いほど覚えていないの、梨花のこと。その存在さえも……彼方だ。



 記憶に残る頃は、一升瓶で殴られたこと。煙草の火も押し付けられたこともあった。鬼のようなお母さんの顔。いつか殺されると、思ったこともあった。……でも、その直前で救われる。思えば不思議なこと。お母さんの怯える顔を垣間見る。そして鬼から仏への変化が現れる。……もう少し大きくなってから知ること。


 お母さんの中には、邪鬼が宿っていることを悟った。それは満月の夜。或いは十三日の金曜日。夜と朝の間……で、何時しか、昼夜問わず現れるようになった。


 自らの命の危険も顧みず、


 密室でガス栓を開き、充満に至るまで……尚且つ、僕の意識は遠ざかるまでに首を絞めつつ、それでもって引火すれば一緒に木端微塵だけれど、それは躊躇っていて、


 硝子割れる……窓硝子。原因は不明だけれど、怯える顔。僕の首を絞めるお母さんの顔が……何かを見ていて怯えているの。僅かばかりの意識で、僕も見る、見たような気がするの。この世にいないはずの……少年の姿。鬼の目をした少年の姿が。


 ……名前は、もとかず。


 その名が浮かぶの。……今度は自らの意思? わからないけれど、流れる血。とても怖い映像が脳内を支配した。手首は水面を紅く染める。浴室で……さようならも告げずに僕は、発作的に刃を滑らせ、生まれたままの姿で薄れゆく意識。


 だけれど、心は震える。

 もう手遅れかもしれないけれど、死の恐怖……



 でも、目を覚ますことができた。最後の光景と思われた真っ赤な世界は、真っ白な世界へと変わっていた。……死ななかった。死の恐怖は消えない。そう思う中、


 ――痛かった。


 僕のいる場所は病院。そこに駆け付けた梨花は、僕を引っ叩いた。……消えないと思っていた死の恐怖は、きっと……その時の、温かい涙とともに流れた。


 そして、そのあとに聞いたこと。


 そこでもまた不思議なことが起きていた。浴室で発見された僕の姿だ。……確か剃刀で切った左の手首は、効率よく血が流れるようにと思われるが、浴槽に溜めた水の中に入れたはずだけれど、浴室に水は溜まっていなかったそうだ。そして僕は仰向けに倒れていたそうだ。……何でも、男の子が「こっちこっち」と導いたそうなの。


 第一発見者となる、梨花の親友の可奈かな。……確かにそう言ったの。男の子の姿は見えなかったけど、と付け加えて。



 ――怖いと思った。サーッと血の気が失せる程。


 もし、その男の子の声がしなかったら……そう思うと。その男の子のお陰で、僕は二回も一命を取り留めたことになる。その男の子は三十八年前に亡くなったお母さんのお兄さん。つまり僕の伯父さん。だとしたら幽霊なのだけれど、それ自体は「ホラー」ではなくて、無理心中や自殺……いずれも未遂だったけれど、お母さんの内に宿る邪鬼や、或いは僕自身。命を脅かすことこそが「ホラー」のように、そう思えるの。





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その名も、もとかず。 大創 淳 @jun-0824

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