彼女はUFOを撃墜したい

冬和

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「空では何が起こるかわからない……雹に雷、突風、そして──未確認飛行物体! すなわちUFO! 今日もどこかで、奴らはこの空を悠々と飛んでいる! そんなUFOを! 私はこいつを使って落としてやるのよ!」

 と。

 星がきれいな夜空の下で、先輩は波音をBGMに堂々とスティンガーミサイルを担いでみせながら宣言する。

「えっと……それ、本気で言ってるんですか?」

「ええ、そうよ! UFOをこの手で撃墜すれば、世界的な有名人だもの!」

「いや……そんな事して乗ってる宇宙人怒らせたらどうするんですか? とんでもない国際問題──いや、星間問題? になりますよ? 下手したら宇宙戦争になるかも……」

「UFOが宇宙人の乗り物とは限らないでしょ? 未来人が乗ってるって人もいるんだから! それを突き止めるには、撃墜するのが一番でしょ! 違う?」

「は、はあ……」

 こんな事本気で言ってる先輩ですが、こう見えても俺と同じ軍人です。

 俺達の仕事は、今先輩が持っているミサイル、スティンガーを使って、敵の航空機から空を守る事。まあ、今はその訓練中なのだが。

 俺は何の因果か、こんな先輩の観測員としてコンビを組む事になってしまい、本当に困っている──

「……だからって、実弾持ち出したんですか? 許可なく?」

「ええ、上官達は誰も本気で相手してくれないもの」

 そんな事して大丈夫なんですか先輩?

 それ、国民の税金で買ったものですよ?

「いい? この島の近くではね、最近UFOの目撃情報が多いのよ! だから、ここで夜通し見張っていれば、奴らは必ず現れるわ!」

 ダメだこの先輩、完全に耳を貸さない。

 無理矢理連れ出されたのを利用して、説得しようと思った俺がバカだった。

 黙っていれば美人なのに、こんな変な事に捕らわれているから男が寄って来ないんだなあ。

「ですが、そんな都合よく現れてくれますかね、UFO……」

 UFOなんて、呼んだら来てくれるなんて都合のいい存在じゃないだろうに。

 だからUFOを呼べる人って言うのは話題になるんだし。

 ま、そんなものだからこの先輩がUFOに遭遇するなんて、それこそ天文学的な確率──

「……ん? 何だあれ?」

 って思って夜空を見上げたら、何か変なものを見つけた。

 何か光るものが浮いている。明らかに星じゃない。

 飛行機にしては、音も全然しない。

「まさか、UFO──!?」

「え、出たの! どこ? どこ?」

 途端に、先輩が食らいついた。

 俺はつい、あそこです、と指をさしてしまった。

「よーし!」

 先輩がその方向にスティンガーミサイルを構えたのを見て、俺は自分がした過ちに気付いた。

 電源を入れた。先輩は本気だ。

「ちょ、ちょっと待ってください! 本気で撃つんですか!?」

「当たり前でしょ!」

「せめて、まずは識別をしっかりしないと──」

「UFOがここにいるのよ!? 次逃したら、いつ来るかわからないじゃない!」

 ダメだ、話を聞いてくれない。

 ここは民間機が飛ばないエリアとはいえ、あれがもし普通の飛行機だったら、大惨事になるぞ!?

 ミサイルが甲高い音を立てている。ロックオンしている!?

「よーし、ロックオン!」

「や、やめてください先輩!」

 たまらず、僕は先輩のスティンガーミサイルを押さえ込んだ。

 ミサイルを下向きに抑えて、間違っても空へ飛んで行かないように。

「ちょっと、離しなさい!」

「ダメですって──!」

 たちまち、揉み合いになる。

 でも、時間を稼げれば充分だ。

 スティンガーミサイルのバッテリーは1分も持たない。電池切れにさえ持ち込めれば、こっちの勝ちだ。

 先輩の勝手な行動で、地球を宇宙戦争の危機に陥れてはならない!

 がんばれ俺! 地球の運命は、俺にかかっているんだ──!

「あっ──!? ちょ、どこ触ってんのよっ!?」

 だが。

 不意に先輩が、急に色気ある声を出した事に、驚いて手を離してしまった。

「す、すみませ──!?」

「バカね!」

 だが、その隙に先輩はニカっと笑い、スティンガーミサイルを空に向けてしまった。

 しまった! 今のは演技だったのか! 女である事を武器にするとは、卑怯な──!

 だが、後悔しても後の祭り。

「発射!」

 とうとう、先輩は引き金を引いてしまった。

 轟音と共に飛び出すミサイル。

 ああ、なんて事だ。

 ミサイルの光は、そのまま夜空へと吸い込まれていき、そして──

「……爆発しない?」

 何も起きなかった。

 見れば、いつの間にかUFOの姿は消えていた。

 どうやら俺の妨害が功を成して、しっかりロックオンを確認しないまま撃ったようだった。俺の努力は、無駄ではなかった。

 よかった。地球は救われた!

「もう! あんたのせいでUFO取り逃がしちゃったじゃないの! 次UFOをいつ見つけられるかわからないってのに!」

 当然、先輩は俺に文句たらたらだ。

 だが。

「おいお前達! 今何してた!」

 騒ぎを聞きつけた他の兵達達が集まってきた。

 やばい! 先頭にいるのは直属の上官だ!

「来てしまったわね……UFOを見た者の記憶を消す、メンインブラック!」

 そして、先輩はあろう事か、そんな勘違いをする始末。

 空になった発射機を放り捨て、拳を作って身構える。

「私はいつかUFOを撃墜する女よ! こんな相手に邪魔される訳にはいかない! やああああっ!」

 そして、果敢に殴り掛かっていった。

 あちゃあ……こりゃあまたひと騒ぎになりそうだ……

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彼女はUFOを撃墜したい 冬和 @flicker

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