直観探偵【KAC2021】
朝霧 陽月
直観探偵の推理は経験則から出る
「判田仁也さん、アナタが犯人ですね?」
とある密室殺人が起きたホテル。
そのロビーに人を集めた男、臼井 光太郎は一人の男を差して言った。
「は? 何を言ってるんだアイツは密室で死んでたわけだし、俺には犯行時間にアリバイが……」
「いや、分かるんですよ」
長々と話し出そうとした判田を遮って臼井はこう口にした。
「だってこのパターンの事件なら、過去に経験済みなので」
「「「は?」」」
犯人扱いされた判田のみならず、この場にいた全員が声を揃えて間抜けな声を出した。ただ一人を除いては。
「だから見たことがあると言ってるんですよ。今回使われた外から鍵を閉める密室トリックも、死亡推定時間をずらすアリバイ工作もね」
それに対して、臼井は冷めたそう口にする。
「な、何を言って……!!」
「ちなみに密室トリックは過去4回、このアリバイ工作も2回は見ましたね」
「だから、何をさっきからおかしなことを言ってるんだ!?」
「別におかしなことなんて言ってません、証拠だって既にあるんですよ……それともわざわざ説明しないとダメですか? 4回目なのに?」
「何が4回目だ!? 人を馬鹿にするのも大概にしろっっ!!」
「いやいや、観念して下さいよ……あ、そうそうアナタなら分かりますよね、刑事サン?」
物凄い剣幕の判田に詰められた臼井は、それに対しては一切動じることなく、ふと思い出したように後ろを振り返ってある人物に声を掛けた。
それこそが、臼井が先程発した「だってこのパターンの事件なら、過去に経験済みなので」発言に唯一動じなかった人物、刑事の和戸恵子だった。
彼女は深いため息と共に「臼井さん……」と絞り出すように言った。
「いつもわざわざ容疑者の神経を逆なでするのは止めてくださいと言ってますよね?」
「いやー、だってさぁー? 推理のしがいのない、ありきたりでつまらないトリックを使われたものだから、すっかり萎えちゃって……ね?」
「『ね?』じゃありませんよ、だったら人を集めずに先に私に相談するとか」
「そんなの探偵っぽくなくて、ヤダ」
「そんな理由だけで動かないでください!! あとそれならせめてちゃんと、推理を披露してくださいよ」
「いや、そこはなんか人集めたら満足しちゃったからいいかなぁーって」
「全然よくありませんからね!? 一番探偵らしさを出す推理を捨てないでくださいよ……」
「まったく、刑事サンがそこまで言うならしょうが無いな」
大きく深呼吸をすると、臼井は早口で喋りだした。
「あの部屋は二階だけど窓から出入りした後に、紐を使って窓を閉めて密室を作っている。一応紐の破片はあったから、もっと調べれば紐本体も見つかるだろうし、部屋の外壁を調べれば足跡が残っているでしょうね。そして死亡推定時間をずらした方法は、エアコンをタイマー使って、これも犯行が行なわれた部屋の電気の使用量を調べれば分かると思います、温度を上げるために異常に電気を食ってるだろうから……以上」
一気にそう言い切った彼に、その場の誰もが口を挟むことが出来なかった。
そうして一堂の注目を集めてる彼は、そのあと笑顔を浮かべて更にこう言った。
「それじゃあ僕は飽きたから部屋に戻って寝るね、刑事さん後は頑張ってねー!!」
彼はくるりとこの場の全員に背を向けると、嵐のような勢いでその場を去っていき、再びこの場にいる一堂は呆けてしまった。
「ああ、もう臼井さんは……」
そう、彼こそが知る人ぞ知る通称『直観探偵』である。
過去にあらゆる難解な殺人現場に居合わせ推理した経験から、今ではその経験則 (直観)だけで犯人を推理できるようになってしまった探偵であった。
しかし彼は頭のおかしいトリックマニアでもあり、常に新しくて面白いトリックを求めている彼は『あ、これ知ってる』などを感じれば推理を途中で放棄してしまうのだ。
でも何故か探偵という部分に妙なこだわりはあるらしく、探偵らしい行動を取ろとろうとしたりもして周りに多大な迷惑を掛けたりする。
はっきりいって、とても迷惑な人物であった。
だが、その推理だけは彼のメチャクチャな性格に反していつも正確なのだ。
だから刑事である和戸恵子は、いつも臼井に振り回されながらも彼に付き合わされることになっていた。
——ああ、せめて臼井さんが少しでも常識を身に付けてくれればな……。
そう思いながら、和戸恵子は今日も臼井が言ったとおりに調査をする。
そしてきっとその結果は彼の推理通りで、それを臼井に伝えると「だって、経験してるからさ」といつも通り言われることになるだろう。
何故なら彼は他でもない、直観探偵なのだから。
直観探偵【KAC2021】 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu
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