第3話 一方通行
『うぎゃーーーーー!』
ぶちぶちと、膜を抜ける音。
膜を抜けた先に待っていたのは、光溢れる、眩い世界だった。
まるで廊下のように縦に長細い場所に俺たちは立ち尽くしていた。
「……なんだここは」
『何が起こったの!? ここはどこ?!』
「ここは……【マップ】」
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泡沫世界:一方通行
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「一方通行……?」
泡沫の世界とやらを抜けて、別の場所に来てしまったってことか?
レティは抱きついたまま困惑している。
全く、こいつはいつまで俺に抱きついてるつもりなのだろうか。
ホログラムみたいなのに抱きつく感触があるとは、不思議な存在だ。
『え!? もしかして膜を抜けて別の世界に来ちゃったってコト?!』
レティの言う通り、ここはきっと別の世界なのだろう。
別の世界に移ったからなのか、マップを見ても前にいた場所の座標は表示されていない。
『あ! それなら膜が来る予兆が見えてたはずだよね!? 何で反対側を見ろって言ったのさ!』
「……いたずら、だ」
『み!? キミ、こんな時にイタズラするとか、やっぱり頭おかしいよね!』
ジョークだと言うのにマジになっちゃって。
全くレティは冗談の通じないやつだ。
抱きついたまま離れようとしない、冗談が通じないホログラムマジシャン風。
……思えば何という変なやつと一緒に来てしまったのだろうか。
まあ、旅は道連れ世は情けだ。
優しくしてあげた方が、後から自分の助けになるだろう。
優しい目でレティを撫でてやる。
『な、なにその生暖かい目は! 何食わぬ顔で撫でるなぁ! 馬鹿にしないでよ! ボクを誰だと思ってるのさ?!』
『抱きついたまま離れようとしない、冗談が通じないホログラム、マジシャン風』としか思ってないが……。
いや、知られざるバックボーンがある『抱きついた(中略)マジシャン風』かもしれん。
ここはレティに乗っかって、聞いてあげるか。
「……そういえば、誰なんだ?」
『へっへー! よくも聞いてくれたね! ボクの名前はレティシア。かつてはアルテマの闇を司る神……だった精霊さ!』
こんなちんちくりんがかつては神だった、だと……?
「……寝言は、寝て言え」
『へいへいへーい! 全然信じてないじゃーん!』
「異世界にもいたのか、中二病」
自分を強く見せようとして、闇の〜(笑)を名乗り出すやつ。
典型的な中二病だ。
ま、まぁ、誰にも多感な時期ってあるよね!
仕方ないよね!
『さ、さっきよりも生暖かい目になっタァ!』
と、そうやってレティが騒いでいた時のこと。
ふと、体に何かが浸透してくる感覚を覚えた。
「……ん?」
しかし、それは少しして外に弾かれていく。
そして、更にもう少しするともう一度入ってくる感覚を覚える。
また少ししては弾かれていく。
それを繰り返していた。
『え、これはもしかして……』
レティがあわあわとし始める。
レティの身体にも異常が起こっているということだろうか?
【セーフティ】とやらがあるのならどうとでもなる気はするが……。
確かめられるなら確かめた方がいいだろう。
身体の異常……【ステータス】で調べられないだろうか?
「……【ステータス】」
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◆名前:御堂神威
◆種族:人間
◆年齢:17
◆レベル:1
◆スキル:
◇セーフティ
◇マップ
◇ステータス
◆バグ:
◇一方通行——NEW!
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◆名前:御堂神威
◆種族:人間
◆年齢:17
◆レベル:1
◆スキル:
◇セーフティ
◇マップ
◇ステータス
◆バグ:
◇一方通行——REJECTED
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ステータスを表示する石板は、この二つの画面を交互に表示し続けていた。
レティにも見せてやろう。
透明な石板を右手で掴んだ。
む、そういえば、抱きついたままだと見せられないな。
左手でレティの首根っこを掴んで体から離す。
『むあ……な、な、ななな!』
「……見ろ、バグとやらが生えたり消えたりして——」
『——何してくれてんのさー! キミは!』
む、情緒が不安定だな。
牛乳を勧めるべきだろうか。
『キミのせいでバグが生えちゃったじゃないか!』
レティの話を聞くことには、どうやら離れたせいで【セーフティ】が働かなくなったらしい。
そのせいでバグという壊れたスキルのようなものを植え付けられたという。
「……そのバグが生えるとどうなるんだ?」
『分からないけど……これは壊れた世界が内部にいるものに課す強制ルールなんだ。だから、名前の通りなら……』
一方通行。
その名前の通りなら——。
『——二度と、決められた方向にしか進めないかもしれない』
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NG:別の一方通行を想像しているレティ
『キミのせいでバグが生えちゃったじゃないか!』
「……そのバグが生えるとどうなるんだ?」
『分からないけど……これは壊れた世界が内部にいるものに課す強制ルールなんだ。だから、名前の通りなら……』
『——ベクトルを任意に操作できるようになるかもしれない』
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異世界急行、途中下車〜クラス集団異世界転移から抜け出した俺が、やがて化け物になって特異点《イレギュラー》と呼ばれるまで〜 嗚呼坂 @ahsaka
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