第3話

 

「遅い! なんで私しか時間通りに来ないのよ!」

 集合を予定していた教室に入るなり、こちらを責める声が聞こえてきた。なぜだかわからないが、枕が飛んできそうな気配がして、防御態勢をとる。

 時間通りについていた待ち合わせ相手の様子は、いわゆる柳眉を逆立てているというあれだろう。

「悪い悪い、やっぱ凛音りおんは真面目だな。委員長やってるだけのことはあるよ」

 後ろから入ってきた悠馬が笑いながら僕の肩をたたく。目線はきっちり部屋の中にいた先客に向いていた。

「翔もさすがにビビりすぎだろ」

「ああ.......」

 なんでこんなことを自分はしたのだろうか。よくわからない。でも、次の瞬間にはいつも通りの調子が戻って来たのを感じた。

 僕は姿勢を正して、きっちり九十度、腰を曲げる。

「ほんとごめん。次からは気を付ける」

 悪いことをしたのならば、しっかりと相手のことを見据えて謝ること。わだかまりを残すことこそが、一番の問題だ。これも我が家の家訓の一つにあった気がする。

 実際、目の前に立つ相手は鼻を鳴らして不満げな様子を見せたが、それでも許してくれるだろう。柚木ゆずき凛音は筋を通す真面目な奴だ。

「まあほんの五分程度の遅れだから大丈夫だろ」

 あくまでものほほんとした悠馬の発言に、凛音の顔がまたしてもちょっと怖いことになる。ちなみに凛音の機嫌は眉の形でわかるが、顔が怖いのに眉の位置が正常で、すこしあれ、と思う。

「そのちょっとした気のゆるみが問題なのよ! 五分前行動ってならわなかったの?」

「習ったけど忘れた」

と、悠馬が屈託なく笑うものだから、凛音はまた顔をしかめて何か言う。こんな感じで悠馬とはよく口論になっている。それでもお互いの関係が良好なのはひとえにどちらも悪い奴ではないからだと思う。

 とはいえ、その口論は止めないとめちゃくちゃ長いことになるので、両者の間に入るのは僕の役目だ。

 そうしていつも通り足を踏み出そうとして何かが立ち止まらせる。まるで二人の止め方を忘れてしまったかのように、一瞬動けなくなる。

「……今日はなんだか調子が悪いな」

 寝坊したのもきっとそのせいだ。小さく息を吸って、僕はようやく思い出したかのように二人の間に入っていった。 

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きみの物語になりたい 大臣 @Ministar

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