シロナガスクジラは90年生きるんだって
静寂
1
シロナガスクジラは、90年生きるんだって
大きなからだは、深い海に沈んで終わっていくんだって
長い一生はどんなだろう?
その目で 何を見たんだろう?
何を思って 目を閉じるんだろう?
最後に何が見えたんだろう?
始まりは 焦げた太陽が 波間にジュッと音を立てて沈む地平線
半分に切れたオレンジ色の光の塊と その上で淡く輝くベテルギウスを見てた
どんどん怖いものがなくなって 暗い夜空に沢山の星が虹色に光り輝いた後
ぎゅっと閉じていた箱の中から同じ虹色の光が溢れ出した
そうした後
青や 赤の魚たちが踊る中で 小さな分身を目を細めて眺めていた
喜びがあふれ出して 水面から飛び出し 山波を作りながら自分も一緒に踊った
ビルの11階を照らす朝日と 同じ光を浴びただろう
ボート位だった子と 一緒に進むと
ゆらゆらと白いレースの波が立ち 真珠の玉がコロコロと水の上を転がる
ふたりで水を震わせ 深い歌を歌う
イルカの群れは スクリューになってグルグル回りながら眺めていただろう
長い旅の途中で 氷の中から現れた モノトーンの怪物達に囲まれる
黒く硬いからだを壁に 守ったのに 宝物は呪いに飲み込まれてしまった
その失われた影を 月が照らしていただろう
広い海の端っこで 大きなからだがザブザブ揺れて 波を立て
小さな目からこぼれた欠片は 海を更に 塩っぱくした
鰯の群れは それを横目で見ながら 通り過ぎただろう
それでもまた とてつもなく暗く広い パラシュートを大きく広げ
小さな無数の命を飲み込む
あふれ出た哀しみごと飲み込み 更にこぼれ落ちる欠片を 陽の光がキラキラ瞬かせる
そうして 大きな大きなからだは 沈んでいったのだろう
最後に見た色は真っ黒だったとしても 心の中では木星が瞬き
あの日見た赤や青の魚たちが踊っていると良い
白いレースの波間を 真珠色が彩っていると良い
ビルの11階から見える 朝の光が 眩しく照らしていると良い
シロナガスクジラは90年生きるんだって 静寂 @biscuit_mama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます