物語を紡ぐ方ならば、ましてや異世界を語るならば、その世界の設定をどれだけ練られるかによって、深みが変わることをご理解いただけるでしょう。
もちろん、設定過多になってしまうと、物語の動きを阻害しない説明描写が困難になります。
物語の構成も同じで、何度も繰り返されるイベントは、類似性が高ければ飽きを生んでしまいます。
本作は約37万文字の長編です。
にもかかわらず、中だるみもなく、次から次へ開示される新要素と、第一話から組み込まれている多くの伏線が芽吹き、王道ファンタジー恋愛物語として最後まで期待に応えてくれます。
人狼、魔法、魔術、逆魔術、狂狼、月の乙女。
さらには日本古来の神や神具も交え、多くの魅力的な登場人物によって彩が輝きます。
日本の知識を使った内政チートも適度なエッセンスとして楽しくなる。一方で、凄惨な戦いも妥協はありません。
そんな困難を乗り越える月の乙女の覚醒シーンは、大人の魔法少女?的なビジュアルが浮かび、戦闘シーンも併せ、戦いたい成人女性の欲求を存分に満たしてくれます。
特筆すべき描写として、服飾関連の描写が子細かつ緻密で、耽美的と言いますか、情景想起に大きな助勢になりました。
本作のテーマは「太陽と月の恋物語」「生きている限り届き合う想い」「存在と記憶の香り」「生きる場所と生きる意味」など様々に思い浮かびますが、実際はもっとシンプルなんだと思います。
お互いを求めて繋いだ手を、いつまでも離さない。
そんな二人の物語でした。