時は五胡十六国時代。
我々のよく知る三国の時代を経て中華の様相は一変。長城を越えた胡人たちの国家が乱立し、終わることのない破壊と戦争を続ける暗黒時代。
その中で、漢人の国家を復活させんとする男が現れた。
名は冉閔。
彼は漢人主導の国家「魏」を打ち立てるも、それに留まらず胡人の虐殺を開始。数十万の屍を築く。
が、如何な高尚な理想を掲げようとも、煽りを喰らうのは常に民衆である。
これはそんな過酷な時代に巻き込まれた、漢人と胡人の悲恋の一節。それにまつわる怪異譚。
非常に短くまとまったホラー物ですが、三国志の時代の後において、かくも残虐な民族浄化が行われていたことを知ってもらうという意味でも、是非とも手に取ってもらいたい作品です。
タイトルの通りです。
読み応えたっぷりの古代中華歴史浪漫ホラーは圧巻です。
史書で語られる歴史の一端を叙事的に語りながらも、思わず悲鳴を上げたくなる生々しい仄暗さがじわじわと読むごとに広がります。
出世欲、権力欲に目が眩み、人の心をどこへでも放り投げられる人間の残虐さ、
強い信念は持っていても、それだけでは無力極まりない人間の弱さ、
己の無力さを知るからこそ、時勢に逆らえず我が身可愛さに身内を売る狡猾さ、
そして疑念と後悔で心身を病む脆さ。
そこに、一縷の希望を差すがごとく颯爽と現れる異能者——導士の活躍が神がかってキラリと光ります。
歴史小説としての格調を保ちつつ、どこか人懐っこさを感じさせる文章がとても読みやすく、サクサクと一気読みしてしまいました。
歴史ニガテという人でも、非常にとっつき易い作品だと思います。