人馬一体
リクヤ
人馬一体
僕の名前はバイク。
正式な名前はGSX-S1000。2016年モデルで、色はグラススパークルブラックとキャンディダーリングレッド。名前の通り1000CCの排気量で4ストロークのエンジンを搭載している……。
と語っても小難しい話にしかならないので、ただのバイクでいいや。
知っての通り二つのタイヤをはき、ガソリンエンジンを響かせて疾走する乗り物だ。
そんな僕がどうして今回の主役なのかというと、テーマが「走る」だからだ。
そう、僕は風を切って走ることができる。エンジンもパワーがあるから高速道路だって楽に移動できるんだ。時速120キロで走ることだって余裕さ。出そうと思えば時速200キロくらいなら出ると思う。
おまけに軽くて倒しやすいから、曲がりくねった道だってへっちゃらなんだ。
車と違って渋滞にはまることもない。自由に走れる。
唯一の欠点といえば、荷物があまり乗らないことくらいだろう。カウルっていう風除けもないけど、まぁそれはそれさ。
なのに、僕のことを危ない乗り物だと思っている人間は多い。
正直、僕自身もそう考えることがある。車はタイヤが四つあるけど、僕は二つしかない。自転車よりも速いスピードで動けるけど、その分だけ危ない。
僕に乗ったら火傷するぜ? ……うん。ちょっとカッコつけすぎたかな。
それに不便だ。冬は寒いし夏は暑い。春は花粉がひどいし、秋は落ち葉でタイヤが滑る。
雨の日なんて、僕だったら絶対に乗りたくないね。
バイクに乗るなんて奇特な連中だと思う。バイクの僕がいうのもなんだけど。
その例に漏れず、僕にまたがるドライバーは変なやつだった。
最初はとてもへたっぴだった。運転中も無駄に力を使い、旅の途中で疲れ果てて。おまけに僕に乗りながら眠りこけそうになったり。
挙げ句の果てに、僕に乗って事故を起こした。
曲がりくねった山道の下りでスピードを出しすぎ、曲がり切れずに崖に突っ込んだ。僕は横転し、空中で三回転もした。目が回るかと思ったよ。
ドライバーは僕より重傷で、右手を骨折した。しかも普通の骨折じゃなかったから、僕は半年ほど乗ってもらえなかったんだ。
正直、僕は売られると思った。大事故を起こしたのに乗ってもらえるわけがない。
僕と彼は離れ離れになる。仕方のないことだ。
そう、諦めていたのだが……。
ドライバーは僕を手放さなかった。あんな事故を起こしたのに、また僕にまたがってくれたんだ。
事故のトラウマがあるだろう彼は、しばらく落ち着いたペースで乗った。
そして、ツーリング仲間が貸し切ってくれたドライビングスクールに通って、メキメキと腕を上げたんだ。
うまくなった彼は僕に乗っていろいろなところに旅をした。リラックスして運転できるから長旅をしても疲れないし、道中眠ることもない。
周りの大人ともよく話して、笑顔になることも増えていった。
今はコロナのせいで乗ってもらう回数は少なくなったけど。
まだ僕は、いや。
僕たちは走り続けているんだ。
人馬一体 リクヤ @pppaaa
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