尊い生き物
―――今、若い女性たちの間でペットとして”ネイパソモー”が大人気だ。一体彼らの何が、そんなにも女性たちの心を掴んでいるのか。ネイパソモーを飼い始めて5年という女性たちに、その魅力について語ってもらった。
「まず何よりも、頭が良いんですよ! 私達飼い主の顔をすぐに覚えてくれて、家に帰ると大きな声で鳴いて、大暴れして喜んでくれるんです」
『そうそう。あと、手先もすごく器用で、ちょっとした道具なら使えちゃうんだよね。留守にしている間にいたずらされないように、あらゆる家具・家電に電子ロックをしておかないといけないのは、ちょっと大変かな(笑)』
―――なるほど。さすが猿の仲間といったところですね。
―――餌については、どうですか?
「結構グルメなんですよ。同じネイパソモーでも、生まれた場所によって、食べるものが違ったりもするし。最初は探り探りですね」
『それに、精神的ストレスがすぐに食欲に影響しちゃうみたいで。家に迎え入れたばかりの頃は、やっぱり新しい環境に慣れないみたいで、何を出しても食べようとしなくて……どんどん痩せていくから、このまま死んじゃうんじゃないかってハラハラしてたら、やっと食べ始めてくれて。ガツガツ食べている姿を見ていたら、結構じ~んとしてきちゃったり(笑) ああ、私も飼い主として認めてもらえたのかな、なんて考えちゃって』
「分かる(笑) 私もそうでした!」
―――ペットとして気になるのは、やはりトイレの躾かと思いますが……そちらはいかがですか?
「それがすごい楽なんですよ! ネイパソモー用のトイレだけ用意しておけば、1日に数回、自分でトイレに行ってしてくれるので」
『同じネイパソモーでも、赤ちゃんだと自分で出来ないらしいですけど、私たちが飼うのはある程度成長したネイパソモーなので、その頃にはトイレのやり方を、親を見てすでに覚えているみたいですね』
―――ネイパソモーは、ある程度成長した個体を飼うんですか? 大抵のペットは、子どもの方が可愛いと人気ですが……
「他の動物はそうですけどねー。子どものネイパソモーは、お世話がすごく大変なんですよ。餌を数時間おきにあげなきゃいけなかったり、夜になると何故か鳴き声が止まらなかったり」
『たしかに見た目は可愛いけどね。でも私は成長したネイパソモーの方が好きかな!』
「私も! あの、ところどころに毛が生えてるの、可愛くない? なんでそこだけ? って感じで(笑)」
『分かる分かる(笑) どうせなら全身に生やせば良いじゃん、って思っちゃう(笑)』
―――そこに可愛さを感じるんですね(笑)
―――最初に、頭が良いとおっしゃっていましたが、芸なんかも覚えたりするんですか?
「そうですねー。頭が良いから、大抵のことは覚えると思いますよ。私は餌をあげる前の、”お座り”と”お手”くらいしか覚えさせてませんけど。最初はなかなかやってくれなかったんですけど、餌を取り上げるふりをしたら、すぐに覚えてくれました(笑)」
『私は、部屋の中のものを壊したり、部屋から飛び出そうとしたり、そういう悪いことをしたらちゃんと叱るようにしてるんですけど、すぐに分かってくれますよ。なんだろう、こちらの表情をよく見ていて、感情を汲み取れているっていうのかな……こっちが本気で怒ると、ビクッとして固まっちゃって、それから震えちゃって……ああ、怖がらせちゃったな、とは思うんですけど、それ以降はやらなくなるので、分かってくれたんだなーって』
「そういえば、ネイパソモーに色んな芸を覚えさせてみた! みたいな動画も、いっぱいあるよね」
『あるある! 頭が良いうえに器用だから、本当に色々出来ちゃうんですよー。時々すごく嫌そうな顔しながら芸をしてる子もいて、それ見てついつい笑っちゃったり』
「あれ、動画の裏ではいっぱい叩かれたりしてるんだろうなーって思うと、私はちょっと可哀想になるけどねー」
『まあ、それはそれぞれの飼い主の教育方針ってやつだから』
―――家で一緒に過ごされる際は、どうですか? 一緒に遊んだり、抱っこして撫でたり、一緒に寝たりして過ごされるんですか?
「多分殆どの子がそうだと思うんですけど、ネイパソモーってかなりツンデレで。撫でようとしても逃げられたり、機嫌が悪いと噛まれたりもするんで、遠くから眺める方が多いかもしれないです。まあそのツンデレなところもまた可愛いんですけど(笑)」
『一緒に寝るのも、私は怖くてできないですねー。あの子たち小さいんで、寝返り打った時に潰しちゃったらどうしようって、心配で(笑)』
―――お二人が飼われている子たちは……
「このくらいですね」(手で大きさを示す。彼女たちの身長の1/5程しかない)
『うちの子も同じくらいです』
「そういえば、私の知り合いでもう50年くらいネイパソモーを飼っている方がいるんですけど、その方のネイパソモーはすごく懐いていて、撫でても逃げないし、一緒に寝てるって言ってましたね」
『え、すごい! そんなことできるんだ!』
「私たちもまだまだってことだよ(笑)」
『うわー、頑張んなきゃ(笑)』
―――その女性は、1匹のネイパソモーを飼われているんですか? そもそも、ネイパソモーの寿命って、どのくらいなんでしょうか?
「その方は、1番長い子で50年一緒にいるって言ってましたねー。途中新しい子も飼い始めたりして、今は3匹飼ってるって言ってたかな?」
『ネイパソモーの寿命は、病気をしなければ、100年くらいあるらしいですよ』
―――100年! となると、私たちの人生の半分近くも一緒にいられることになりますね。
「そうなんですよ。なので、飼い始めるときは覚悟が必要です」
『責任重大なんです(笑)』
―――散歩の必要はどうですか?
「家に引きこもってるとすぐに太っちゃうんで、なるべく毎日行くようにしてますね。でも、散歩自体は嫌いみたいで、リードを見せるとすごく嫌そうな顔をするんですけどね(笑)」
『ネイパソモーって表情豊かだから、見てて面白いよね(笑) うちの子は、散歩というより首輪が嫌いみたいで、見せると暴れまわりますね(笑) 外に出てしまえば渋々歩くんですけど。他のネイパソモーを見ると、すごく喜んで、コミュニケーションを取りに行きますよ』
「老齢になったネイパソモーは、他のネイパソモーを見ても、そんなにテンション上がらないですけどねー。いやに落ち着き払っているというかなんというか」
―――たしか野生のネイパソモーは、集団で生活してるんでしたよね?
「そうですよー。絶滅危惧種の特番で見たことありますけど、すごく縄張り意識が強くて、同じネイパソモー同士でしょっちゅう争って、死んでしまったりするんですって。だから絶滅しかけるんだよ、って、保護団体の人が嘆いてました(笑)」
『確かネイパソモーって、住んでる場所によって鳴き声がかなり違うらしくって、同じネイパソモーでも、住んでる場所が違うと、容易にコミュニケーションが取れないらしいですよ。それが強すぎる縄張り意識の一因じゃないかって』
「私達からしたら、同じ鳴き声に聞こえるけどね」
『ねー』
「私のネイパソモーは、家に来たときはよく、”カエリタイ”……? って鳴いてたな。今はあんまり鳴かなくなったけど」
『うちの子は、”ママ”って、よく鳴いてたなー』
―――貴重なお話、ありがとうございました。最後に、お二人のネイパソモーと一緒のお写真を撮らせてください。
記事の最後には、写真が載っている。
クラゲのような触手を10本以上も持ち、頭に当たる部分には3対の目をつけた2体の生物が、こちらを見て、大きな口の端を吊り上げ、何本もの鋭い歯を覗かせている。
2体の生物の触手には、それぞれ似たような姿の生物が抱えられている。
2本の腕と足を持ち、頭部には1対の目をつけ、頭部と足の付け根のあたりにのみ毛を生やしたその生物は、カメラの方は見ないまま、何かを諦めきったような表情をしていた。
了
KAC2021参加短編集 前半戦 小木 一了 @kazuaki_o-o
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