21回目の誕生日
初めての誕生日は、きっと覚えていないことでしょう。だって、あなたはまだ、喋ることも歩くこともできなかったから。なのに食べられもしない重いお餅を背負わされて、あなたは大層不服そうな顔をしていました。
2回目の誕生日も、覚えていないのかな。色々と食べられるようになってきたあなたのために、ベビーチェアのテーブルに載りきらないほどのご馳走を用意したのです。なのにあなたは、大好きなリンゴばかりを食べていて、今度は私が不服そうな顔をしました。
3回目の誕生日は、あなたが大好きなクジラを模ったケーキを、わざわざお店に注文したものです。あなたは目を輝かせて喜んでいたけれど、私が包丁を入れると、途端に泣き出しました。
4回目の誕生日は、覚えていますか。事前にあなたに欲しいものを聞いて、それをプレゼントしたのです。あなたはプレゼントに夢中になって、ご飯に見向きもしなくなってしまって、食べてから渡せば良かったと、後悔したものです。
5回目の誕生日は、幼稚園でも祝ってもらえました。同じ月に生まれたお友達と一緒に、名前を呼ばれてお菓子をもらって、皆でおうたを歌ったと、あなたが嬉しそうに話しているのを、今でもよく覚えています。
6回目の誕生日は、プレゼントを探して走り回りました。あなたが、テレビでチラッと見ただけのものを、商品名も覚えずに、欲しい欲しいと言ったからです。おかげで少ない情報を元に、店員さんに聞き込みを続ける羽目になりました。見事に見つけ出した私を、褒めてほしいものです。
7回目の誕生日は、小学校のお友達を招待して、誕生日パーティーを開きました。友達と遊んで、プレゼントを貰って、ケーキを食べて、あなたはとても嬉しそうにしていましたが、あなたが友達に囲まれている姿を見て、私もとても嬉しかったのです。
8回目の誕生日は、お父さんと議論が白熱しました。あなたが欲しがっているテレビゲームを買い与えるかどうかで、意見が割れたのです。結局、別のプレゼントを買って渡すと、あなたは少し残念そうな顔をしていました。
9回目の誕生日は、しばらく前からあなたはとても真剣に生きていました。テストで100点を取ったら、テレビゲームをプレゼントすることを、約束したからです。見事に結果を出したあなたに、プレゼントを渡したら、あなたはそれ以降毎日のように、そのゲームを持って、友達の家に遊びに行くようになりました。
10回目の誕生日は、あなたの希望で、家ではなくて外でご飯を食べることにしました。好きなものを頼んでいいよと言われて欲張ったあなたは、食べすぎてしまい、しばらくうんうんと唸り続けることになりました。
11回目の誕生日は、おめでとうと言うと、「おれももう11才か。大人になったもんだぜ」と言って、私たちを大いに笑わせました。
12回目の誕生日は、友達を家に呼びたいと、あなたは言いました。私が紙の輪飾りや風船で部屋を飾り付けようとしたら、あなたは断固拒否しました。結局、友達を家に呼んでゲームをして遊んだり、お菓子やケーキを食べただけで、いつもとあまり変わらなかった気もします。でも、あなたが満足そうだったから、良いのかな。
13回目の誕生日は平日で、あなたの好物が多めの夕飯の後に、ケーキを食べて、プレゼントを渡すと、あなたは照れたように「ありがと」と言うだけでした。子供の頃のように盛大に喜んでくれなくなって、ちょっぴり寂しかったのを覚えています。
14回目の誕生日は、土曜日でした。あなたが、友達の家に泊まりに行きたいと言ったので、私たちは初めて、あなたがいないあなたの誕生日を過ごしました。あなたは詳しく話すことはなかったけど、お泊り会はとても楽しかったようだと、あなたの様子から分かったので良かったです。私たちのプレゼントは、誕生日翌日の日曜日に渡すだけで終わりました。
15回目の誕生日は、あなたがプレゼントは携帯電話が良いと言ったので、またお父さんと議論が白熱することになりました。結局、中学の友達と卒業後も連絡が取れるように、と、プレゼントをしましたが、あなたはそれ以降、携帯電話ばかり見つめるようになりました。
16回目の誕生日は、夕飯の後にケーキを食べて、プレゼントを渡すだけで終わりました。あなたはそっけないお礼を言っただけでした。
17回目の誕生日は、あなたの部活の合宿があり、2度目の当日に祝えない誕生日になりました。メールで「おめでとう」と送ったのに、あなたからの返信がなくて、ふて寝しました。
18回目の誕生日は、ケーキを食べている最中に、話題が受験勉強についてになってしまい、何かが気に障ったあなたはケーキを食べかけのまま、部屋に戻ってしまいました。今までで一番、気まずい誕生日になってしまって、後悔しています。
19回目の誕生日は、あなたはこの家にはいませんでした。「おめでとう」のメールを送って、プレゼントは何が良いかを聞いたのに、あなたは「考えておく」と言ったきり、それを伝えてくることはありませんでした。結局、私が選んだものを後日郵送することになりました。
20回目の誕生日は、私達たっての希望で、東京のレストランで落ち合って、家族みんなで食事をすることにしました。節目の誕生日だから、ちゃんとお祝いをしたかったのです。勉強にバイトにとサークルにと、忙しくしていたあなたも、ちゃんと時間を作ってくれました。目を見て、「おめでとう」と言うと、あなたは照れながらも「ありがとう」と言いました。そして、私たちがプレゼントを渡したら、あなたも私たちにプレゼントを用意していて、「20年間、ありがとう」と、言ってくれたのです。全く予想外のことだったので、びっくりして、お父さんと暫く見つめあってしまいました。「こちらこそ」と返した私の目が赤くなってしまったことに、あなたは気づいたでしょうか。
もうすぐ、21回目の誕生日ですね。今年も、家族みんなでお祝いできることを、嬉しく思います。
毎日忙しくしているみたいだけど、体を壊さないように気を付けて。
了
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