恋と呼んでいいのかはわからないけれど
あゆう
恋と呼んでいいのかわからないけれど
「いやいやいや! だからぁ! あのシーンは爆炎の中から出てくるからカッコイイんだよ? まぁ…ね? 上から降ってきての斬撃も確かにカッコイイけどもね? ぶっちゃけ顔がイイから何でもいいんだけど」
私は、ポケットの中に突っ込んであるスマホから伸びた、イヤホンに付いてるマイクに向かって話しかける。両手にはお皿とスポンジを持ちながら。
時々、「なんかカチャカチャ聞こえるけどいったい何してんの?」って言われるけど、いつも「今食器洗ってんの! なんかね? 一人でだと洗う気起きないんだけど、こうして会話してるとちょうどいいBGMになるんだよね」って応えてる。
嫌な事も楽しい事と一緒だと苦にならないんだよね。
そしてそんな会話の相手は、顔も本名ですら知らない相手。しかも一人ではなく複数の人達。男の人もいれば女の人もいる。
最近家にいる時間が増えて暇を持て余していたおうち時間に、一日中見てるSNSでの仲間の一人がこんな事を投稿したの。
『暇じゃ。誰か無料通話アプリで話そうぜ?』
って。
私もそのアプリの話は聞いた事はあって、少し興味はあった。知り合いもそれを使ってオンラインパーティー? みたいなの開いてて楽しそうだな、って思ってたし。
だから私はその投稿に返信してしまった。
『やって……みようかな?』
え? 私、何送ってんの!? ただでさえ人見知りなのに! 絶対無言になっちゃって雰囲気壊しちゃうじゃん! やっぱ今の無し! 返事が来る前に消さなきゃ!
そう思ってすぐに自分の返信を削除しようとしたのに、返事がきた通知が私のスマホに届いた。
『おっけーい! 今招待送るからそこから入ってきて! もう三人くらい集まってるぜ? ちなみにいつものメンバーな』
いや、返事早いから。どんだけ暇なのよ。
あ、そういえばテレワークになったって言ってたっけ? そして他の二人も暇なのね。
……じゃなくって! え、どうしよう。ほんとに? やばい。超緊張してきた……。あ、招待コードきた。
うぅ〜〜〜〜!!!
えぇ〜い! なるようになれっ!
あ、私まだアプリのダウンロードしてないじゃん……。
「てなことが最初あってねぇ〜」
『え、なに? あの時入ってくるの遅いと思ったらそんな裏話あったんか!?』
「ほら私ってば乙女だし? ドッキドッキしちゃって? みたいな?」
『あぁ〜確かに。だって俺、最初の一言まだ覚えてんもん。”あ、えと……はじめまして? あの……初めてなんだけどこれで大丈夫かな……ですか? 聞こえてます? ” だったっけ? SNSでのイメージと違いすぎて危なく惚れそうになったわ』
「ばっ!? 何言ってんの? 言っとくけど、そんな簡単に私を落とせるとは思わない事ね! まったくもう!」
『えー! ざんねーん! うははははー!』
ば、ばっかじゃないの!? 冗談でも惚れるとか何言ってんの!? だって会ったことも無いのに!
うぅ~~! なのになんでよぉ……。冗談だって分かってるのに顔が熱いのはなんでなのよぅ!
そりゃ確かに話聞くの上手いから私も話しやすいし? 声もなんだか安心するし、話題も尽きないから楽しくて、この前なんて二人で六時間も会話しちゃったけどさ? でもこれは……あーもうわかんないっ!
その日も結局家から出ずに、ベッドの上で転がったり、ソファーでお菓子食べたりしながら話し続けて、彼のスマホの充電が無くなったところで会話は終わった。
いつものホーム画面を見ながらイヤホンを外す。この時思うのは、もっと話したかったな。って事。
あぁ、これってやっぱり──
声だけで恋とかって言ってもいいのかな? はぁ……。
恋と呼んでいいのかはわからないけれど あゆう @kujiayuu
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