ラプンツェルのおうち時間が彼女の運命を変えたッ!

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話


 昔々、とある塔の上にラプンツェルという少女が悪い魔女に監禁されておりました。

 ラプンツェルは魔女の言われるがままに塔の上で監禁され16年間、おうち時間を過ごしておりました。

 『外は危ないんだよ。アタシは強い魔女だから問題無いけど、アンタみたいな貧弱、到底外では生きられないからね。

 ほら、降りるから髪を下ろしておくれ。』

 魔女のそんな言葉に縛られて、彼女は塔の上で16年間、魔女以外の誰とも逢わず、おうち時間を過ごしておりました。

 そんなある日の事です。





 「おばあ様、私はもう16歳になりました。」

 「あぁ、そうだね。」

 「昔よりもずっと私は強く、逞しくなりましたよ。」

 「あぁ?アンタ、何が言いたいんだい?」

 「つまり、私はもう塔の外に出ても十分やっていけると思うのです!」

 「馬鹿言ってんじゃ無いよ!外は危険が一杯なんだ!アンタなんか地面に降りた途端に溶けっちまうよ!

 ホラ、毛先を整え終えたから、さっさと私を降ろしな!」

 そう言っておばあ様は鋏でジョキジョキと私の髪の毛を30cmくらい切って、外に出ようとする。

 「どうしてもですか?そうは言ってもこの16年、外の風景をこのおうちから見ていましたけど、危ない事など見た事も有りませんよ。今の私なら子どもの頃の様に鋏の刃を指で撫でる様な愚かしい真似はしませんよ!?」

 「くどい!何度言っても解らんのかこの馬鹿娘は!

 狭い世界で目に見えるもの、耳で聞こえるもの、それが全てじゃ無いのさ!

 あそこに見える木々だって、アンタが地面に降りた途端、蔓を伸ばしてアンタの首を締め上げて殺すんだからね!

 アンタは視野が狭い。塔の中の情報だけで判断するんじゃない!

 アタシの様に魔法を使って木々を焼き払える力が無い限り、地面に触れる事など許されないよ!

 この塔があの木より頑丈だから木はアンタを襲わないだけ!この塔があるから怖いものや強いものはアンタを襲わない!アンタは塔に守られているだけで、強かないって何度も言っているだろう!」

 おばあ様はそう言って真っ赤になって地団太を踏む。

 「つまり、私は出られないと。」

 「あぁ、諦めな。」

 「私が出るには如何すれば良いのですか?」

 「ハンッ!アタシより魔法が使えるようになれば、出してあげるよ!話はこれまでだよ。」

 そう言って背を向け、長く伸びた私の金色の髪を地面に落として塔の外に出ようとする。




 「ババア、テメェの言い分はよぉく分かった。」

 ドスの利いた声が何処からか聞こえて来た。

 「あぁ?アタシの事をババア呼ばわりするのは何処のドイ………お前かいラプンツェル!?」

 聞き覚えのある声に信じられないという顔をしながら振り返る。

 「あぁそうだ。ラプンツェルだ。

 やれやれだ。まさかその程度の嘘で16歳を騙し切れると本気で思っているとはよぉ。」

 「嘘?何のことさーね?」

 シラを切る婆。だが、こちらには婆の言うことが嘘だと断言出来る証拠が、在るぜ!

 「丁度5年前だ。婆と間違えて道に迷った旅人を塔の上に引き上げたことがある。」

 「なっ!」

 「そいつが言ってたぜ。この森にいるのは悪い魔女の婆だってことを。

 そして、その魔女は生まれたばかりのこの国の王女を拐って喰った。

 それが11年前。つまり、私と同い年。偶然じゃぁねえよなぁ?」

 人指し指を真っ直ぐに。婆に向ける。

 「出鱈目だ!そいつは森の悪い妖精だよ!

 アンタは騙されたんだ!」

 「あぁ、その可能性は十分ある。

 よぉーく考えても、初対面の奴のそんな話、信じるのは無理がある。」

 考えなかった訳じゃぁない。

 疑わなかった訳じゃぁない。

 だから……。

 「その後、降りたんだよ。塔の下になぁ!」

 「ラプンツェルッ!お前ェ!!」

 婆の表情が全てを物語っていた。

 「森の木々が絞め殺すことも、三つ首百眼の狼も、腕の本数が千を超える巨人も居なかったぜ!」

 婆から聞いた話は全てお伽噺。空想の産物だ。

 「人を16年も騙して監禁してよぉ、人の髪の毛を売って自分は言い思いをしているみたいじゃあねぇかよお!婆ァ!」

 拳を固く握る。

 「ヒフヒヒ……ハハハハハハバカな餓鬼さね。

 黙ってれば良かったものを。

 知らぬフリして愚かな娘のフリをしていれば良かったものを!

 生半可な知恵が仇になったな。ラプンツェルウウウウウウ!」

 婆が何処からともなく取り出した箒に乗って塔の中を飛び回り始めた。

 「髪さえ伸びればアンタ自体に用はない。

 その脳みそぶち壊して、物言わぬ髪生やしの置物にしてやんよ。」

 そう言いながら箒で絶えず飛び回る。

 「やれやれ。『5年前だ。婆と間違えて道に迷った旅人を塔の上に引き上げたことがある。』って言ったよな?

 5年間、アンタが居ない間に、私は逃げることが出来た。それをしなかった意味を考えるべきだったぜ。」

 突進は止まらない。

 「知るか!死ねぃ!ラプンツェルゥゥゥゥゥ!!」

 懐から杖を構えてこちらに向ける。

 「逃げても追いかけてくる。

 なら、キッチリここで倒す必要があるわけだ。だから、この長い長いおうち時間で、鍛えた。

 この5年間、お前を殴ることばかり夢見ていたぜ、婆!」

 「出来ないね!お前はここで置物になるんだから『ブレインクラッシュ』!」


 婆は杖を振り下r「オラァ!」


 杖を持っていた腕がへし折られた。

 ついでに箒も折られて地面に叩きつけられる。

 「ギィャァァアアアアアア!」

 塔の中に断末魔が響き渡る。

 「ギャァギャァ騒ぐな。

 このラプンツェルじゃあ外出には力不足なんだろ?

 だが婆。お前は大丈夫なんだろう?そして、塔は外の連中じゃぁブチ壊せねぇんだろう?

 ならよぉ、このラプンツェルが塔を壊して婆を倒せれば、それは十分外出出来るって事じゃぁねぇかよぉ!」

 地面に叩き付けられた婆に向けられる

拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳拳

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 地面と拳に挟まれ押し潰される魔女。

 一発の拳に抵抗しようとしても、次の拳が幾つも飛んでくる。

 拳は魔女と地面を叩き割り、ドンドンドンドン地面と顔面を砕いていく。

 「バカナァ!この魔女がぁ………この魔女がぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 断末魔と共に轟音が鳴り響き、土埃が塔を包む。

 「ハァ、やれやれだぜ。」

 土埃の中から現れたのは、当然、黄金の髪をなびかせるラプンンツェル!

 「テメェがこうなった理由はたった一つ。たった一つのシンプルな理由だ。

 テメェはおうち時間を舐め過ぎた。」

 十年以上に及ぶおうち時間の勝利であった。



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